栃木県内の東武鉄道鬼怒川線には、「SL大樹」号という観光列車が走っています。下今市駅(栃木県日光市)から鬼怒川温泉駅(栃木県日光市)まで片道12.4kmの区間を、所要時間30分から40分程度で結びます。
東武鉄道でのSL復活プロジェクトが2015年から始まり、2017年8月から「SL大樹」号として運行が実現しました。当初はC11蒸気機関車1両とDE10ディーゼル機関車1両、14系客車3両だけで運行が始まりましたが、その後車両が増備されています。
現在配備されているのは、蒸気機関車がC11ばかり3両と、ディーゼル機関車2両です。そして、客車に関しては、14系客車や展望車の12系客車があわせて9両あります。車両の様々なバリエーションを楽しめるようになりました。
SL大樹が2編成同時に線内を走る場合、SL同士がすれ違うことがあり得ます。しかし、2024年のダイヤでは、すれ違いの場面は残念ながら見られません。
この記事では、東武鉄道の観光列車「SL大樹」号および「DL大樹」号の運行ダイヤや車両(機関車・客車)に焦点を当て、詳しく解説します。それに加え、東武鉄道のSL大樹でしか見られない転車台での作業シーンを、動画で共有したいと思います。
SL大樹号に乗車するためのきっぷの買い方(予約の方法)については、別の記事(↓)に詳しくまとめました。乗車したいと思ったら、先にご一読ください。
「SL大樹」号の概要・運行ダイヤ
東武鉄道におけるSL復活プロジェクトは、大手私鉄の中では最も大がかりな鉄道産業遺産保存の取り組みです。現在では、古き良き昭和時代を偲ばせるSL列車が日光地区の東武沿線で日常的に見られ、強力な観光資源になっています。
列車の概要
このSL列車の運行が始まる際、列車の名称が「大樹」と決まりました。SL列車は、鬼怒川線を走る「SL大樹」号と、日光線・鬼怒川線を通しで走る「SL大樹ふたら」号として走っています。
また、ディーゼル機関車にけん引されて運行される時もあり、鬼怒川線を「DL大樹」号として走ります(他線区に乗り入れることもまれにあります)。
- SL大樹:下今市駅ー鬼怒川温泉駅
- SL大樹ふたら:下今市駅→東武日光駅→下今市駅→鬼怒川温泉駅
- DL大樹:下今市駅ー鬼怒川温泉駅
これらの列車は、運行当初は週末の土休日のみの運行でした。現在は、ほぼ毎日運行されています。
東武鉄道には、3両の蒸気機関車、2両のディーゼル機関車、9両の客車が在籍しています。それらの車両の拠点は、下今市駅構内にある「下今市機関区」です。大がかりな検査や整備は、南栗橋工場(埼玉県久喜市)で行われます。
下今市機関区でみられる蒸気機関車とディーゼル機関車は、以下の通りです。
- C11-207号機 蒸気機関車
- C11-123号機 蒸気機関車
- C11-325号機 蒸気機関車
- DE10‐1099号機 ディーゼル機関車
- DE10‐1109号機 ディーゼル機関車
蒸気機関車もしくはディーゼル機関車1両と、客車3両が一つの編成単位となります。
列車の運行ダイヤ【2024年3月現行】
通常は1編成、多客期は2編成が東武鬼怒川線(一部は東武日光線)を走ります。2024年ダイヤでは、SL大樹の行き違いのシーンは見られません。
(下り列車)
列車名 | 編成 | 下今市駅発 | 鬼怒川温泉駅着 |
SL/DL大樹1号 | ◆ | 09:33 | 10:09 |
SL/DL大樹3号 | ◇ | 10:29 | 11:05 |
SL/DL大樹5号 | ◆ | 13:30 | 14:06 |
SL/DL大樹7号 | ◇ | 15:01 | 15:37 |
※「SL大樹ふたら」72号は大樹5号と同時刻
(上り列車)
列車名 | 編成 | 鬼怒川温泉駅発 | 下今市駅着 |
SL/DL大樹2号 | ◆ | 11:14 | 11:51 |
SL/DL大樹4号 | ◇ | 12:53 | 13:28 |
SL/DL大樹6号 | ◆ | 15:41 | 16:21 |
SL/DL大樹8号 | ◇ | 16:45 | 17:20 |
通常の週末には1編成が運用に入り、上表◆で表示した列車が運行されます。多客期には2編成が運用に入り、◇の列車も運行されます。毎年軽微なダイヤ改正があり、時刻の修正がありますが、運行時間帯自体は上表が骨組みになっています。
大まかな運行ダイヤは、このダイヤグラムの通りです。土休日は、2編成で4往復8便、もしくは1編成で2往復4便が走り、平日は1往復2便が走ります。○囲み数字が列車号数で、●が転車台作業の時刻です。
編成に組み入れられる機関車と客車の組み合わせは常に入れ替わり、それが編成予定表で確認できます。東武鉄道SL大樹のウェブサイトで毎月公表されるので、乗車する際は事前にチェックしましょう。
「SL大樹」の基地:下今市機関区
SL大樹が東武鬼怒川線で運行されるにあたって、下今市駅構内に機関車の車庫と転車台がある基地が新しく作られました。それが、下今市機関区です。
機関区の車庫内には、蒸気機関車3両がちょうど入るようになっています。列車が運行される時には、下今市駅構内を行ったり来たりする光景が見られます。
下今市機関区がある下今市駅。駅舎も、昭和レトロ風にリニューアルされました。
駅名標はいささか作り物感がありますが、レトロさがにじみ出ています。
「SL大樹」の機関車
冒頭で申し上げたように、東武鉄道には貸与されたものを含め、合わせて5両の蒸気機関車やディーゼル機関車が在籍しています。そのうち、蒸気機関車が3両ともC11であるのは偶然です。
大手私鉄が観光列車用にこれほど多くの機関車を保有する例は他にはなく、鉄道産業遺産の中心地となりそうな気がします。
C11-207号 蒸気機関車
長らく北海道で走っていた蒸気機関車で、JR北海道が東武鉄道に貸与する形です。この機関車は、2017年のSL大樹号運行開始時から使われています。自動車のように前照灯が2つ付いた蒸気機関車は結構珍しく、「カニ目」と呼ばれています。
発車準備中のC11-207号機。蒸気機関車は、見ていて美しいです。
C11-325号 蒸気機関車
栃木県東部の第三セクター鉄道会社、真岡鉄道において「SLもおか」として走っていた蒸気機関車が、東武鉄道に譲渡されました。2両目の蒸気機関車で、2020年12月から東武線内で営業運転に入りました。
2022年12月に開かれた「東武プレミアムファンフェスタ」にて、南栗橋工場で整備中のものを見学しました。
機関車が完全にオーバーホールされており、動輪がすべて外されていました。
C11-123号 蒸気機関車
いったん廃車になって静態保存されていたものが復元されて、再び走るようになった蒸気機関車です。製造当初から民鉄で活躍していたもので、復元後走るのも、民鉄の東武線内というのは偶然でしょうか。2022年7月に復元作業が完了し、営業運転に入るようになりました。3番目に導入された機関車です。
C11-123号機は、東武鉄道創立123周年にちなんで、将来への飛躍を表現するために命名されたとのことです。
機関士が計器をチェックしています。栓やバルブ類については、新しいものを使用していることがわかります。
DE10‐1099号 ディーゼル機関車
2017年の運行開始時より、C11-207号機とともに活躍しているディーゼル機関車です。JR東日本より譲受し、東武線内で走っています。
当初は、勾配がきつい東武鬼怒川線を走るために、編成の最後尾に補機として連結されていました。その後「DL大樹」として、先頭に立って走っています。
DE10‐1109号 ディーゼル機関車
これも、JR東日本から譲受したディーゼル機関車です。同型機が2両揃った形です。こちらは、かつてJR北海道管内で走っていた寝台列車「北斗星」号や「はまなす」号をけん引していたディーゼル機関車の塗色を大体のところで再現しています。
「SL大樹」の客車
2017年の運行開始当初は、14系客車3両のみでした。その後増備されて、現在は9両が在籍しています。いずれもJR四国やJR北海道で使用されていた客車で、昭和から平成時代の風情がそのまま残っています。
14系客車【一般車両】
最もオーソドックスな客車です。青色塗色の車両と、ぶどう色に塗色され直した車両が、合わせて6両あります。
青色の客車です。JR線を走っていた当時そのままの姿が見られます。
ぶどう色に塗色された14系一般車両です。レトロ客車の塗色ですが、筆者が物心ついた頃にはもう走っていなかったと思います。
一般車両の座席です。国鉄時代を連想する青色モケットの鮮やかさが際立ちます。広窓が採用されていて、座席の向きを転換すると景色が良いです。
座席の背もたれもそのままで、テーブルは付いていません。
14系客車【ドリームカー】
JR北海道でかつて走っていた客車が、そのままSL大樹号の客車として使用されています。ドリームカーに設置された座席は深くリクライニングし、夜行列車の車両として相応しいものでした。夜行急行列車「まりも」号の指定席車両だったことを思い出します。
他の客車の定員が64名であるのに対し、このドリームカーの定員は48名です。座席が快適な上、1両だけしかないので人気があり、他の号車よりも予約が早く埋まります。
前の席の背もたれがギリギリまで迫ってくる形なので、これも背もたれにテーブルはありません。
デッキ近くにあるミニラウンジ。イメージチェンジされておらず、北海道で使用されていた時の雰囲気のままです。
ドリームカーのドアに貼られたステッカー。JR北海道発足当時の「モジャくん」がデザインされています。
12系客車【展望車】
ボックスシートが並んだ12系客車を東武鉄道が取得してから、一部をオープンエアーの展望車として改造した客車です。それゆえ「オハテ12」という、今まで聞いたことがない車両型式です。2021年から導入が始まった車両で、現在2両が在籍して線内を走っています(青色1両とぶどう色1両ずつ)。
青色の客車「オハテ12-2」。
12系客車にだけ、行先が書かれたサボが車体についています。
ぶどう色の展望車です。南栗橋で目撃しました。
今まで簡易リクライニングシートしかなかったSL大樹号に、ボックスシートが加わりました。機関車だけではなく、客車の座席の種類も多様になりました。
オープンエアの展望スペースです。ベンチが設置されています。
デッキ近くにはミニカウンターがあって、ディスプレイが置かれています。プロモーションビデオが流れていました。
車掌車
SL大樹号で独特なのが、機関車の後ろに連結された車掌車です。営業列車では、他には見たことがありません。車掌さんが乗務しているわけではなく、ATSなどの安全装置が搭載されているとのことです。中に入ることはできません。
2024年4月以降、C11-123号機で運行される列車には車掌車が連結されなくなりました(機関車にATSが搭載されたため)。
転車台体験
方向を自分で変えられない蒸気機関車の向きを反対にするため、転車台が使用されています。東武鬼怒川線内には、下今市駅構内と鬼怒川温泉駅構内の2か所に転車台が設置されています。その日の運行本数と同じ回数だけ、列車到着直後に転車作業を見学できます。
転車台での作業は、通常数分で完了します。少なくとも数分前には転車台に着くようにしたいです。
まとめ
2017年より営業運行が始まった「SL大樹」号。機関車や客車が増備され、いわば「走るミュージアム」といえるまでの状態になりました。観光資源なだけではなく、鉄道産業遺産の保存の拠点として文化的にも重要な施設になるような気がします。
蒸気機関車が3両、ディーゼル機関車が2両、客車が9両あって、日によって使用される車両が違います。事前に編成表を確認したいところです。
一日に2往復4便走ることが多いですが、多客期には2編成が線内を走り、4往復8便が運行される日もあります。
座席には、簡易リクライニングシートやドリームカーのフルリクライニングシート、そして展望車のボックスシートと、いろいろなタイプがあります。好みに応じて使い分けたいです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
●「SL大樹」公式ウェブサイト(東武鉄道)2024.8閲覧
● SLアテンダント通信 第37号 2024.7
当記事の改訂履歴
2024年9月03日:初稿 修正
2024年8月15日:初稿 修正
2024年8月11日:当サイト初稿(リニューアル)
2023年02月10日:前サイト初稿
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