鉄道の列車にはあらかじめ運行スケジュールが組まれていて、定期的に運行されます。基本的には、決まった時刻に毎日列車が走っています。これが、定期列車です。
しかし、列車に乗車するユーザーの需要は一定ではありません。混雑する時期もあれば空いている時期もあります。したがって、定期列車を走らせるだけでは需要を満たせません。
そのため、季節や行事といった需要の変動に応じて、臨時列車が設定されます。列車に乗車できるチャンスが増えるため、多客期には有用な存在です。
しかし、臨時列車は比較的突発的に設定されるため、運行情報が知られにくいことが課題です。知らぬ間に臨時列車が走り、情報を知っている一部のユーザーだけで車内が占められている光景を見かけることがあります。
そこで、臨時列車の運行予定をいかにして知ればよいのか、疑問にお感じではないでしょうか。
いち早く無料で臨時列車の運行情報を入手できるのは、鉄道会社の公式ウェブサイト上にあるニュースリリースです。しかし、時刻表から得られる情報もしっかり押さえたいです。
この記事では、鉄道旅行に出かける方を対象に、臨時列車の運行スケジュールを知る方法や情報源についてご説明します。それらをしっかり押さえて、充実した鉄道旅行を楽しみましょう!
臨時列車とは
臨時列車に関する情報の調べ方を説明する前提として、臨時列車は何のために設定されるのかを、ここでお話しします。
定期列車と臨時列車
冒頭で申し上げた通り、鉄道の運行に当たっては、運行計画(ダイヤ)があらかじめ策定されます。毎年3月に行われるダイヤ改正は、この計画を大幅に変更することを指します。
そのダイヤの大半を占めるのが、定期列車です。定期列車は、毎日同じ時刻に同じ区間を走ります。駅に掲示された時刻表もしくは出版された時刻表を見れば、必ず掲載されています。そのようなわけで、定期列車についてはその存在が広く知られています。
それらの定期列車で輸送の需要を満たせないと想定される場合に設定されるのが、当記事のテーマである臨時列車です。鉄道のユーザーが増える夏休みや年末年始の時期、あるいは大規模なイベントが開催される時には、定期列車だけではさばけません。そのため、臨時列車が必要です。
臨時列車は毎日同じ時刻に走るのではなく、必要な時に突発的に運行されます。そのため、臨時列車の存在があまり広く知られていないわけです。
臨時列車には、「季節列車」と呼ばれるものも含まれます。季節列車は、一定の時期に毎日運行される列車を指します。通年で運行されないことが、定期列車との違いです。
臨時列車の区分
臨時列車は、増発列車とも呼ばれます。臨時列車が設定される背景にはいろいろあり、それに応じた区分がいくつかあります。
臨時列車が設定される段階によって、以下のように区分されます。
- 予定臨時列車
- (狭義の)臨時列車
運行ダイヤを設定する段階で設定される臨時列車は、予定臨時列車と呼ばれます。当該臨時列車を「影スジ」としてダイヤにあらかじめ組み込んでおき、必要な時だけ運行される形です。一方、突発的に設定されるのが狭義の臨時列車で、設定臨時列車と呼ばれることもあります。
そのダイヤにどのような列車を走らせるか、対象となるユーザーによって以下のように区分されます。
- 多客臨時列車(多客臨)
- 団体臨時列車(団臨)
多客臨時列車は略して「多客臨」とも呼ばれます。対象ユーザーが制限されず、きっぷを買えば誰でも乗車できる列車です。一般的な定期列車の増発列車やJR東日本エリアを走る「のってたのしい列車」は、この区分に該当します。
団体臨時列車は「団臨」と略して呼ばれることがあります。旅客営業規則上で、専用臨時列車と規定されているものです。大口団体を構成するユーザーや、旅行商品を造成した上で募集したユーザーが、このタイプの列車の主な利用対象者です。そのため、誰でも乗車できるわけではありません。
例えば、豪華リゾート列車の「四季島」や「ななつ星」、お召し列車の「なごみ(和)」に関しては、乗車する旅行者をあらかじめ募集して運行されます。したがって、それらの列車は団臨に該当します。
臨時列車の見分け方
各列車には、1桁から4桁の数字および文字で構成される列車番号が付いています。
なぜ1桁から4桁と幅広いのか、一般の人が知る由はありません。ただし、列車が走る線区や運行形態によって、列車番号が付けられていることが一般的です。
JR線の列車の場合、ほとんどの列車の列車番号の末尾に入る文字は、「M」または「D」です。電化された区間だけを走れる電車のはM、どの区間でも走れる気動車にはDが付けられます(文字がない列車は客車列車)。
どの列車が臨時列車かを見分ける方法は、比較的単純です。列車番号が4桁かつ千の位の数字が「6」「7」「8」または「9」であれば、臨時列車と言えます。例えば、1001Mが定期列車で、9001Mが臨時列車であるといった具合です。
6000番台から7000番台は季節列車の列車番号として割り当てられますが、現在ではあまり使われていません。
一般的な臨時列車の列車番号としてよく使われているのが、8000番台から9000番台の番号です。8000番台と9000番台を使い分けるための明確な規則はありませんが、9000番台の列車番号が多く見られます。
臨時列車の設定実例【中央線特急】
時期による需要の波(波動)がある列車に、JR東日本中央本線を走る特急「あずさ」号があります。多客時には指定席が満席になる傾向が強いため、週末を中心に多くの臨時列車が運行されます。
ここでは、特急「あずさ」号の列車名および列車番号から定期列車か臨時列車かを見分ける方法を押さえましょう。
列車番号 | 1M | 8075M | 5003M | 5M | 8077M | 8079M | 3107M |
列車名 | あずさ1号 | あずさ75号 | あずさ3号 | あずさ5号 | あずさ77号 | あずさ79号 | かいじ7号 |
臨時列車 | ◆ | ◆ | ◆ | ||||
発駅 | 新宿 | 新宿 | 千葉 | 新宿 | 新宿 | 新宿 | 新宿 |
発駅時刻 | 0700 | 0705 | 0638 | 0800 | 0805 | 0815 | 0830 |
着駅名 | 松本 | 松本 | 松本 | 南小谷 | 松本 | 松本 | 甲府 |
着駅時刻 | 0938 | 1020 | 1023 | 1159 | 1120 | 1127 | 1014 |
備考 | 新宿 0730発 | 松本 1037着 | 9079M 運行日あり |
この表は、特急あずさ号に関する2024年3月現行のダイヤを一部抜粋したものです。
毎正時に新宿駅を発車する定期列車の特急あずさ号には、1から始まる列車番号が付与されています。列車名も、1号から始まります。例えば、定期列車であるあずさ1号(新宿駅発7時00分)の列車番号は、1Mです。
一方、定期列車の後続として走る臨時列車の特急あずさ号の列車名は、70番台もしくは80番台です。それに伴い、列車番号は8000番台もしくは9000番台となっています。例えば、臨時列車であるあずさ75号(新宿駅発7時05分)の列車番号は、8075Mです。
臨時列車のあらましについて押さえたところで、列車の運行情報をどのようにして得るかご説明していきます!
臨時列車運行情報の告知時期
それでは、多客臨時列車の運行情報がいかにして告知されるのかを見ていきましょう。まず、それらの情報が告知される時期についてご説明します。
告知の対象となる期間
全国のJR線を走る臨時列車の運行情報については、年4回に分けて、JR各社から一斉に告知されます。それぞれの対象期間は、次の通りです。
- 春:3月から6月
- 夏:7月から9月
- 秋:10月から11月
- 冬:12月から翌年2月
春には、3月のダイヤ改正前後の臨時列車の情報が一斉に告知されます。夏には3か月分、秋には2か月分、そして冬には4か月分が告知されます。一見不規則ですが、毎年同じパターンで告知されるので、いったん要領をつかめば理解は容易です。
告知される時期
これらの情報が一斉に告知されるタイミングは、1年間あたり4回あります。いずれも紙の時刻表の発行時期と連動しており、告知の直後に臨時列車が掲載された時刻表が発売されます。
- 春:1月
- 夏:5月
- 秋:8月
- 冬:10月
お盆期間を含む夏休みの時期に走る臨時列車の情報は、5月20日前後に解禁されます。また、年末年始の時期が含まれる冬の臨時列車の情報が解禁されるのは、10月20日前後です。
各媒体によって告知される時期が決まっていますが、これから詳細を各別に掘り下げていきます。
臨時列車の設定情報が得られる媒体
多客臨時列車(増発列車)に関する情報は、紙ベースの刊行物や鉄道会社の公式ウェブサイトから得られます。ここでは、それらを一つずつ掘り下げてご説明します。
JR時刻表・JTB時刻表(紙・デジタルの大判時刻表)
鉄道旅行の情報を得たり、旅程のプランニングを行う上で、欠かせないのが時刻表です。鉄道旅行を志すのであれば、是非読みこなせるようになりたいです。
全国のJR線を走る全列車の情報が掲載されている時刻表には、前述した通り「JR時刻表」と「JTB時刻表」があります。
毎年3月号はダイヤ改正の情報が掲載されるため、発行部数が一年間で最も多いです。そして、各シーズンの臨時列車の情報は、6月号、9月号、12月号に掲載されます。
JR時刻表とJTB時刻表には、概ね同じ情報が掲載されています。しかし、体裁にはそれぞれ特徴があるため、人によって好みが分かれるところです。
JR時刻表
JRグループの出版会社である交通新聞社から、毎月刊行されています。毎月下旬に発売される紙版に加え、デジタル版も発売されています。
JR駅のみどりの窓口に常備されているため、駅を利用するユーザーが目にすることが多い時刻表です。JR各社が業務で使用しているため、どちらかと言えば実務者目線で実用性に重点が置かれていると感じます。
特急列車が赤字で印刷されていることが、JR時刻表ならではの大きな特徴です。また、臨時列車が斜体(イタリック)で印刷されているので、臨時列車であることが見分けやすいです。
きっぷのルールが掲載されたページが、「ピンクページ」と呼ばれることがあります。JR時刻表では、当該ページにピンク色の用紙が実際に使用されています。このように、視覚に訴えかける工夫が施されているのが、JR時刻表の特徴と言えるでしょう。
JTB時刻表
大手旅行会社JTBのグループ会社、JTBパブリッシング社から毎月刊行されています。
値段や発行時期は前述したJR時刻表と全く同じで、書店では並べて売られていることが多いです。JTBの店頭にはもちろんのこと、私鉄線の駅にもJTB時刻表が常備されている場合があります。
JR時刻表にはカラーのページがありますが、JTB時刻表は全ページがモノクロです。掲載された情報もカラー印刷ではありませんが、特急列車については太字で印字されています。
新幹線及び在来線特急列車の車両形式が掲載されていることが、JTB時刻表の大きな特長です。
しかし、JTB時刻表では臨時列車が斜体で印刷されていないため、定期列車と見分けが付けにくいのが弱点です。中央線特急のように臨時列車が多い線区では、情報にメリハリに欠けているように思えます。
JR各社のニュースリリース
JR各社の公式ウェブサイトには、ニュースリリースを告知する場所があります。各シーズンの臨時列車の情報が告知される媒体は、当該ニュースリリースです。
上述した時刻表2誌が発売される直前のタイミングで告知されるため、情報をいち早く入手できます。また、インターネット環境があれば無料で情報にアクセスできるのも、ニュースリリースの強みです。
JR各社で調整の上、以下のように決まったタイミングで一斉に告知されます。
- 春の臨時列車:
1月17日から同月23日までの間 - 夏の臨時列車:
5月17日から同月23日までの間 - 秋の臨時列車:
8月17日から同月23日までの間 - 冬の臨時列車:
10月17日から同月23日までの間
情報が解禁されるのは、上記の期間に含まれる金曜日の14時前後です。まれに、解禁日の翌週木曜日に発表されることもあります。
JR各社とも、本社から情報が発信されますが、JR東日本だけは各支社からもより詳細な情報が提供されます。臨時列車のバリエーションが豊富なJR東日本管内については、各支社の情報にも目を通すことがおススメです。
ニュースリリースには、発駅と着駅の時刻、運転日に加え、充当される車両の形式と編成の両数が明記されています。
中央線特急の例で見ると、主力のE353系電車で運転される列車の他に、臨時列車に充当されることが多いE257系電車が運用に入りうることが明確です。
この情報をチェックした上で乗りたい車両の目星をつけて、列車の指定券を購入する乗り鉄ファンが多いです。
専門雑誌「鉄道ダイヤ情報」
JR時刻表と同様、交通新聞社から毎月刊行されています。鉄道趣味が前面に出た雑誌で、基本的には鉄道ファン向けです(特に乗り鉄・撮り鉄向け)。
雑誌の後半部分に、臨時列車の運転情報が掲載されています。各臨時列車のダイヤや車両形式、編成両数といった詳細な情報が回送列車の区間を含めて記載されていて、乗り鉄や撮り鉄の情報源としては十分な内容です。
趣味的な臨時列車の情報に詳しいことはもちろん、定期特急列車についても、充当車両の変更や増結に関する実用情報が掲載されています。
あわせて、団体臨時列車や集約臨時列車の運行情報を誌面から得ることができます。臨時列車に関して時刻表以上の情報が必要な場合、この雑誌の購入を検討するとよいでしょう。
まとめ
毎日同じ区間を同じ時刻に走る定期列車に加えて、臨時列車が設定されることがあります。ユーザーが増える繁忙期や突発的なイベントの開催によって需要が増加し、定期列車だけでは輸送力が不足するためです。
臨時列車の運行情報を知っていると、指定券の確保がより容易になり、旅程のプランニングがより柔軟になるといったメリットがあります。そのため、積極的に臨時列車を活用することをおススメします。
臨時列車の運行予定は、シーズンごとに年4回告知されます。毎年1月、5月、8月および10月に情報が解禁されるので、しっかり押さえておきたいです。
臨時列車の運行予定をあらかじめ知るための情報源には、次のようなものがあります。
- JR時刻表・JTB時刻表
- JR各社のニュースリリース
- 鉄道ダイヤ情報
このうち、インターネット上から閲覧できるニュースリリースが最も有利でしょう。無料でいち早く情報を入手できるからです。JR各社の公式ウェブサイトのトップページから、ニュースリリースにアクセスできるはずです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Appendix:JR各社のニュースリリースURL一覧
● JR北海道
● JR東日本
● JR東海
● JR西日本
● JR四国
● JR九州
参考資料
● JR時刻表2024年6月号(交通新聞社)
● JTB時刻表2024年6月号(JTBパブリッシング)
● 旅客鉄道株式会社各社 ニュースリリース
● 鉄道総研報告 Vol.24 No.10 日別需要に基づく鉄道輸送計画作成手法の開発 2010.10
当記事の改訂履歴
2024年8月22日:初稿 修正
2024年8月15日:当サイト初稿
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