宮城県北部と山形県北部を結ぶJR陸羽東線は、紅葉が美しい鳴子峡や、鳴子温泉郷への足になるローカル線です。
この路線には、快速「湯けむり」号という臨時列車が、週末を中心に走っています。仙台駅から古川駅を経由し、新庄駅まで137kmの区間を、停車時間を除き、正味2時間40分程度で結んでいます。
この列車は、通年で運行されている臨時列車です。通常は、キハ110系車両(レトロラッピング車両/一般車両)にて運転されます。
多くの臨時列車は観光列車として運行されることが多いですが、快速「湯けむり」号は純粋な臨時列車です。
そのため、地味な雰囲気の穴場的な列車と言えましょう。喧騒から離れて、静かに乗り鉄の風情を楽しむのに適した列車ではないでしょうか。
華やかさはないものの、車内販売や無料WIFIが装備された高スペックの臨時列車です。指定席券を購入すれば、青春18きっぷでも乗車できます!
この記事では、全車指定席の快速列車「湯けむり」号について、きっぷの準備方法や座席の詳細を詳しくご説明します。その後、実際に乗車した際の様子を詳しくお伝えします。
快速「湯けむり」号の概要
臨時列車の快速「湯けむり」号は、週末や祝日に運行されています。仙台駅(仙台市青葉区)と山形新幹線終点の新庄駅(山形県新庄市)の間を、小牛田駅(宮城県美里町)および陸羽東線経由で結びます。
この列車には、無料WIFIサービスが装備されたり、車内販売があったりと、観光列車並みのサービスがある列車です。しかし、JR東日本管内を走る代表的な観光列車「のってたのしい列車」には位置づけられていません。
鳴子温泉郷について
この列車で訪問できる鳴子温泉郷について、簡単に触れておきたいと思います。
鳴子温泉郷は、宮城県北西部に位置する大崎市にあります。5つの温泉地から成り立っていて、東北地方の湯治場として有名です。その中でも、鳴子温泉は鳴子温泉駅に近く、列車で気軽に訪れることができます。
鳴子温泉には鳴子峡があり、秋の紅葉で有名です。快速「湯けむり」号の車内からも、鳴子峡を眺められます。
また、鳴子温泉郷は、伝統的なこけしの産地としても有名で、こけしに絵付けする体験も可能です。
快速「湯けむり」号の運行ダイヤ
快速「湯けむり」号は、この区間をかつて走っていた「リゾートみのり」号の後継となる列車です。走行ダイヤは従来とほぼ同じで、下り列車は仙台駅を午前中に出発し、新庄駅にお昼頃に着きます。上り列車は午後に新庄駅を出発し、夕方に仙台駅に戻ります。
列車番号 | 下り(8727D) | 上り(8728D) |
発駅名 | 仙台駅 | 新庄駅 |
出発時刻 | 9時37分 | 15時00分 |
↓ | ↓ | ↓ |
着駅名 | 新庄駅 | 仙台駅 |
到着時刻 | 12時37分 | 17時40分 |
この列車の終点、新庄駅がある山形県新庄市には、著名な観光スポットは特にありません。したがって、山形新幹線と(在来線の)奥羽本線、陸羽東線、陸羽西線が接続する新庄駅には、長時間滞在するというよりは、列車の乗り換えに特化しているように感じます。
そんなわけで、快速「湯けむり」号の乗客層としては、鳴子温泉への観光客や乗り鉄ファンが主になります。そして、思いがけないことに、地元の用務客が多く乗車していました。山形県北部から仙台市まで向かう足としての実需があるようです。
快速「湯けむり」号の座席
快速「湯けむり」号に充当される車両は、2両編成のキハ110系気動車です。基本的にはレトロラッピング車両で運行されますが、一般車両となる日があります。多客となる紅葉時期には、指定席車両2両に加え、自由席車両1両が増結されることもあります。
キハ110系車両は車齢が高く、経年劣化が進んだ車両です。そのため、古めの特急列車のような車内で、懐かしさを覚えます。1号車と2号車の指定席は、1列4席のフルリクライニングシートです。見た目よりも、快適に過ごせます。
向かって仙台駅方が1号車で、新庄駅方が2号車です。1号車と2号車の間にはボックスシートが2か所ありますが、指定席としては発売されていません。
鳴子温泉郷や鳴子峡が見えるのは、A席側です。車窓から見えるのは一瞬ですが、A席側のほうが眺めがいいでしょう。
窓は、多くの在来線特急列車と同じく、2列で1枚の広窓です。新庄駅ゆきの下り列車に乗る時には奇数番、仙台駅ゆきの上り列車に乗る時には偶数番の座席を選ぶとよいでしょう。
快速「湯けむり」号の情報源
快速「湯けむり」号は、楽しく乗り鉄を満喫できる列車です。しかし、どういうわけか、JR東日本の観光列車「のってたのしい列車」のラインアップに含まれていません。そのため、「のってたのしい列車」公式ウェブサイトには、快速「湯けむり」号の情報が収録されていません。
仙台に本拠がある東北本部のウェブサイトには、快速「湯けむり」号の運行日や運行区間などの最新情報が掲載されています。このページがとても探しにくいため、念のため当該ページへのリンクを載せておきます。
この列車は臨時列車であるため、運行に関する情報がなかなか集めにくいです。運行日や発車時刻は時刻表の他、定期的に発信されているJR東日本のニュースリリースにて確認できます。
臨時列車の調べ方に関するノウハウについて、別記事(↓)にまとめました。是非ご一読ください。
快速「湯けむり」号の乗車に必要なきっぷの準備方法
臨時列車の快速「湯けむり」号は、通常は全車指定席で運行されます。そのため、乗車するには、事前に「乗車券」と「指定席券」を用意します。
紅葉時期の多客期(11月前半)には、通常の指定席2両に加え、自由席1両が増結されます。自由席には乗車券だけで乗車できますが、混雑した場合必ずしも座れるとは限りません。不安を感じるようであれば、あらかじめ指定席券の準備をおススメします。
指定席券の値段
快速「湯けむり」号の指定席券の値段は、大人530円(小児260円)です。閑散期に運行されることはないため、この値段で固定と考えればよいでしょう。
他の多くの列車の指定席券の値段が軒並み引き上げられてしまった中、この値段で踏みとどまっている状況です。
指定席券の発売箇所・発売時期
乗車日1か月前の午前10時00分に、指定席券の発売が開始されます。現在は、どの箇所で購入したとしても、開始時刻は同じです。
JR各社の駅(みどりの窓口・指定席券売機)
乗車日1か月前の午前10時00分から
指定席券売機できっぷを購入する際、シートマップを表示すれば、座りたい席番を自分で選べます。
快速「湯けむり」号に関しては、指定席券売機では経路の検索にある程度の技量が必要です。操作が難しいと感じたら、駅の窓口で購入すると良いでしょう。
ネット予約サービス「えきねっと」
乗車日の1か月と7日前の午後14時00分から【事前受付開始】
実際に予約が成立し、座席が確保されるのは、乗車日1か月前の午前10時00分以降です。
快速「湯けむり」号を予約するには、自分で乗車区間と日にちを入力して検索します(「のってたのしい列車」ではないため、一発で検索できるボタンがありません)。
途中の古川駅で新幹線に乗り換えず、全区間を快速「湯けむり」号に乗車したい場合、検索オプションにある「乗り換えなし(直通列車のみで検索)」にチェックを入れてから検索します。
他の列車と同様、シートマップを表示し、好きな席を選べます。
「えきねっと」できっぷを購入した場合、乗車前に駅の指定席券売機で指定席券(紙のきっぷ)の受け取りが必要です。
指定席券の様式
購入後発行される指定席券は、以下の通りです。
乗車券について
快速「湯けむり」号に乗車するためには、指定席券の他に乗車券が必要です。
普通乗車券を購入する他に、以下のフリーきっぷ類を乗車券として利用可能です。
- 週末パス
- 小さな旅ホリデー・パス
- 青春18きっぷ【時期限定】
- 北海道・東日本パス【時期限定】
- 大人の休日俱楽部パス【時期限定】
なお、「大人の休日俱楽部パス」を持っている場合、パスの指定席枠を利用して、快速「湯けむり」号の指定券(指のみ券)を取ることができます。
青春18きっぷで普通・快速列車の普通車指定席を利用するためのコツについて、別の記事(↓)にまとめてあります。是非ご一読ください。
それでは、快速「湯けむり」号に乗車した際の様子を、写真でご覧いただきます!
快速「湯けむり」号乗車体験:上り列車で仙台駅へ【2022年秋】
2022年9月中旬、快速「湯けむり」号の上り列車に全区間乗車しました。この日は残暑がまだまだ厳しかったですが、快晴に恵まれました。
上り 8728D:
新庄駅発 15:00分 →(陸羽東線・東北本線)→ 仙台駅着 17:40分
当日、新庄駅には、山形新幹線で入りました。終点の新庄駅では、奥羽本線秋田駅方面や陸羽西線方面に乗り継ぐユーザーが多かったです。
14時30分頃に、改札口を通ってホームに入りました。改札口の近くには、写真のようなパネルがありました。
車両の外装「レトロラッピング」
快速「湯けむり」号が発車する5番線ホームに向かったのと同時に、車両が入線してきました。このタイミングでは、ホームにいた人はまだまだ少なかったです。
この日の車両はキハ110系車両でしたが、車体には「レトロラッピング」が施されていました。チョコレート色の車体に装着された水色のヘッドマークが、とても鮮やかに見えます。かつての「リゾートみのり」号の車体が茶色であったことを連想させる塗色です。
「レトロラッピング」の外装について、車内に案内がありました。折しも、2022年は鉄道開業150年の節目の年で、昔の客車のイメージを再現したとのこと。
車両の側面には、LEDの行先表示器があります。列車名の「快速湯けむり」が表示されていました。
車内探訪
発車20分前の14時40分に、車内に入ることができました。まずは、車内探訪。外装のレトロラッピングが新鮮なのに対して、内装は年季が入っています。昭和時代末期の在来線特急列車の車内の雰囲気で、かなり懐かしい感じです。
座席の背もたれにあるテーブルの色を見ると、余計に車両の古さを感じます。座席自体は、フルリクライニングシートです。
1号車、2号車それぞれの車両には前後にドアがあるものの、デッキはありません。ドア付近の座席には、冬場寒い風が吹き込むのではないかと思います。
1号車と2号車の中間部には、ボックスシートがあります。ただし、指定席として発売されていません。道中気晴らしに、一時的にこの座席を使っても良いと思います。
2号車の前方には、トイレが設置されています。2号車1番、2番の座席は、このトイレの隣なので、座席指定の際には留意しましょう。
ここまで見て分かるように、車両自体には、華やかな観光列車らしさは特にありません。長距離の移動に特化した車内です。
仙台駅に向けて出発!
15時ちょうどに、仙台駅に向けて列車が発車。乗車率はそこそこ良く、窓際の席がほとんど埋まっていました。乗り鉄を楽しむファンと地元の用務客が大体半々くらいで、観光列車らしい賑わいはありません。
そんな地味な列車ながら、車内販売のアテンダントさんが終点の仙台駅まで乗務し、飲料やスナックを販売していました。
2022年の「鉄道開業150年」のイベントとして期間限定で配布していた、記念乗車証。青い硬券で、レトロラッピング車両乗車の記念と書かれています。
裏面は、昔風の乗車券のイメージ。鉄道開業150年のデザインなので、2022年限りの記念乗車証と分かります。なかなかナイスな逸品でした。
途中の最上駅(山形県最上町)では、4分間停車。屋根がないホームに降りると、外の空気がとても新鮮に感じます。ここから鳴子温泉駅(宮城県大崎市)までは、陸羽東線の中でも、輸送密度が最も低い区間です。風景が、とてもひなびています。
山形県から宮城県に入ると間もなく、鳴子峡に至ります。一瞬ですが、トンネルを抜けた瞬間に渓谷を眺めることができます。この眺めを見られるのは、進行方向左側、A席側です。紅葉時期は、ここからの眺めが圧巻です。
鳴子温泉駅を過ぎると、平野の中をひた走ります。途中の古川駅(宮城県大崎市)では、東北新幹線に乗り換えられます。小牛田駅(宮城県美里町)で陸羽東線が終わり、東北本線に入ります。
終点の仙台駅には、定刻の17時40分に到着。列車を降りてすぐに夕食を取るのに、ちょうどよい時間です。
まとめ
快速「湯けむり」号は、JR陸羽東線を走る臨時列車です。土曜・休日に運行され、仙台駅から新庄駅までの区間を約2時間40分で結びます。途中、湯治場として有名な鳴子温泉を経由します。
この列車の車両はキハ110系ですが、懐かしさを感じるレトロラッピングが施されています。無料WIFIや車内販売のサービスがあり、臨時列車としては高スペックです。それにもかかわらず、JR東日本の観光列車「のってたのしい列車」には位置づけられていないため、穴場的な列車です。
この列車は通常2両編成で、全車指定席です。そのため、乗車券に加えて指定席券を購入する必要があります。指定券の前売りは、乗車日1か月前の午前10時から始まります。多客期には、早めの購入がおススメです。
素朴な乗り鉄を楽しめる列車です。東北の乗り鉄に出かける際には、この列車を含めてみてはいかがでしょうか。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 南東北 季節のイベント列車(JR東日本東北本部) 2024.8閲覧
● JR東日本 ニュースリリース 2024.8閲覧
● 大崎市 おおさき観光情報(宮城県大崎市) 2024.8閲覧
当記事の改訂履歴
2024年8月27日:当サイト初稿(リニューアル)
2022年9月27日:前サイト初稿
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