世界各国からの航空便が発着する成田空港には、東京の玄関口として多くのユーザーが降り立ちます。しかし、成田空港は東京中心部から約60km(約40マイル)離れていて移動に時間がかかるため、交通機関の選択は多くの人にとって重要な関心事です。
そこで注目されるのが、高速で快適な鉄道アクセスです。主力となる列車には、JR東日本が運行する特急「成田エクスプレス」および京成電鉄が運行する「スカイライナー」があります。
いずれも成田空港と東京を結ぶ特急列車なので、どちらの列車を利用しようかと迷うのではないでしょうか。
これらの列車にはそれぞれ特長があり、目的地や状況に応じて選択するのが賢明です。所要時間や料金といった観点から比較すると、それぞれの強みと弱みが見えてきます。
輸送力があって所要時間が短く、値段が安くて快適なのは、間違いなく京成スカイライナーです。しかし、JRの「Japan Rail Pass」等を利用する場合は、成田エクスプレスに乗車すると良いでしょう。
この記事では、JR「成田エクスプレス」と京成「スカイライナー」の強みや弱みを、様々な角度から徹底的に比較します。どのような状況でどちらの列車が適しているか、使い分けを判断するためのポイントをお話しします。
「成田エクスプレス」と「京成スカイライナー」の比較(要点)
「成田エクスプレス」および「京成スカイライナー」の主な運行区間や所要時間、値段は、下表の通りです。
列車名 | 成田エクスプレス | 京成スカイライナー |
運行区間 | 成田空港→東京駅・新宿駅 | 成田空港→京成上野駅 |
運行間隔 | 30分~60分間隔 | 20分間隔 |
所要時間 | 1時間前後 | 45分前後 |
値段 | 3,070円(東京駅)/3,250円(新宿駅) | 2,580円 |
成田空港から京成上野駅までの移動に特化した京成スカイライナーの強みが際立っています。頻繁に運行し、所要時間が比較的短く、値段がいくらか安い点で、京成スカイライナーが勝っていると言えます。
日本の鉄道に関するしくみを簡単におさらい
この記事が誰にとっても理解できるよう、最初に日本の鉄道のしくみについて簡単に触れます。すでにご存じであれば、読み飛ばしていただいても大丈夫です。
日本の鉄道は、効率性や正確性で世界的に知られています。例外はあるものの、日本の鉄道網は国や自治体といった公共セクターが運営に関与するのではなく、JR各社や私鉄各社といった多くの民間企業によって自律的に維持されています。それぞれの鉄道会社が、独自の路線網を張っています。
鉄道運賃のしくみは、基本運賃(乗車券)と特急・グリーン料金(料金券)の2階建てになっています。座席の設備には、あらかじめ予約が必要な「指定席」と予約なしで乗れる「自由席」があります。列車の種別と利用する設備によって、運賃・料金が細かく設定されています。
列車が運行するダイヤは緻密に組まれており、わずかな遅れでも謝罪があるほど時間に正確です。これらの特徴を知って、鉄道網をうまく使いこなしたいです。
東京から遠く離れている成田空港への鉄道アクセス
詳しい説明を始める前に、成田空港をめぐる鉄道アクセス事情についてお話しします。
成田空港開設の経緯と交通アクセス
東京における国際空港には、東京都大田区にある羽田空港の他に、千葉県成田市に位置する成田空港があります。羽田空港の容量が逼迫したため、広大な敷地を確保できる千葉県成田市に、2番目の国際空港として成田空港が開設されました。
成田空港の立地が東京都心から遠いため、交通アクセスが問題になります。高速道路も整備されているものの途中の混雑が激しく、定時性にはすぐれません。そのためクローズアップされるのが、鉄道アクセスです。
成田空港の建設が計画された段階では、成田新幹線の整備が検討されました。その計画が結局頓挫したため、成田空港への鉄道アクセスは、新幹線ではなく在来線です。
成田空港の開設時から走っていたのが、京成電鉄が運行する「スカイライナー」です。その後、JR東日本も鉄道アクセスに参入し、特急「成田エクスプレス」の運行が始まりました。
両者とも、特急料金がかからない普通列車も運行しています。ただし、この記事ではもっぱら、外国人利用者にとって利用しやすい特急列車についてお話しします。
各列車で向かえる目的地の比較
JR「成田エクスプレス」の運行区間と、京成「スカイライナー」の運行区間は、下図の通りです。
成田エクスプレス(JR東日本)
成田空港から東京駅(東京都千代田区)に直結し、その先山手線渋谷駅(東京都渋谷区)、山手線新宿駅(東京都新宿区)までの区間を結びます。また、横浜駅(横浜市西区)を経て、横須賀線大船駅(神奈川県鎌倉市)に向かう編成もあります。
東京駅から東海道新幹線や東北・上越新幹線に乗り換えて、遠方まで向かうことができます。また、新宿駅から別の特急列車に乗り継ぎ、富士山方面に向かうことができます。東京都心部や西部へのアクセス、および新幹線への乗り継ぎに強いのが、JR線の特長です。
かつては、中央本線八王子駅(東京都八王子市)方面や湘南新宿ライン大宮駅(さいたま市大宮区)方面にも運行されていましたが、現在は運行が終了しています。
京成スカイライナー(京成電鉄)
成田空港から京成上野駅(東京都台東区)に直結します。途中停車する日暮里駅(東京都荒川区)ではJR山手線および京浜東北線に乗り換えられます。上野駅や池袋駅(東京都豊島区)といった山手線北部エリアへ向かう場合、京成スカイライナーが便利です。
スカイライナーの一部の列車は途中、青砥駅(東京都葛飾区)に停車します。青砥駅から都営浅草線方面に乗り換えると、浅草や銀座、羽田空港方面に一直線です。東京東北部や羽田空港へのアクセスに強いのが、京成線の特長です。
目的地によって列車を使い分けるのが、ポイントです。
それでは、各列車の料金やきっぷの買い方について、詳しくご説明します!
JR東日本の特急列車「成田エクスプレス」
まず最初に、特急「成田エクスプレス」に関する詳細についてお話しします。
運行区間・所要時間・運行本数
成田空港から東京駅を経て、新宿駅に向かう編成と大船駅に向かう編成があります。
新宿編成(6両)
東京駅/品川駅/渋谷駅/新宿駅に停車します。成田空港から東京駅までは1時間、終点の新宿駅までは1時間30分です。日中時間帯には、30分間隔で運行されています。
大船編成(6両)
この編成は、前述した新宿編成に東京駅まで併結されます。東京駅から先、品川駅/武蔵小杉駅/横浜駅/戸塚駅/大船駅に停車します。成田空港から東京駅までは1時間、終点の大船駅までは2時間弱です。日中時間帯は、1時間間隔で運行されています。
各列車の運行時刻を調べるには、以下のウェブサイトが役に立ちます。
列車の設備
列車は6両編成で、1編成あたりの定員は290名です。座席の設備には、普通車(Second Class)5両の他に、グリーン車(First Class)1両があります。いずれも全車指定席で、乗車する前に座席指定された特急券を購入します。
各車両の出入口近くに、スーツケース用の荷物置き場があります。全員分のスペースが確保されていないため、できるだけ早く乗車して手荷物を収納したいです。
各座席には100Vの電源コンセントがあり、無料WIFIも利用できます。
運賃・料金
特急列車に乗車するには、運賃(Base Fare)の他に、特急料金がかかります。グリーン車の場合、上記に加えてグリーン料金がかかります。
普通車指定席(Second Class)
乗車区間 | 運賃 | 特急料金 | 合計金額 |
成田空港→東京駅 | 1,340円 | 1,730円 | 3,070円 |
成田空港→新宿駅 | 1,520円 | 1,730円 | 3,250円 |
成田空港→横浜駅 | 1,980円 | 2,390円 | 4,370円 |
グリーン車指定席(First Class)
乗車区間 | 運賃 | 特急料金 | 合計金額 |
成田空港→東京駅 | 1,340円 | 2,500円 | 3,840円 |
成田空港→新宿駅 | 1,520円 | 2,500円 | 4,020円 |
成田空港→横浜駅 | 1,980円 | 4,660円 | 6,640円 |
JRの特急列車は通常、シーズンによって値段が変動します。しかし、成田エクスプレスに関しては、通年で同額設定です。
きっぷの買い方
JR線のきっぷの場合、成田エクスプレスの着駅よりも先、最終的な着駅までの乗車券および特急券の購入を検討します。
駅で購入
駅の窓口で駅員からきっぷを購入するか、指定席券売機を操作してきっぷを購入します。当該券売機は、英語・中国語・韓国語にも対応しています。駅で購入する場合は運賃・料金の割引はなく、所定の金額を支払います。
東京駅などから他の列車に乗り換える場合は、運賃計算が複雑です。その場合には、窓口できっぷを購入した方が無難です。
空港の混雑にともなって、駅のきっぷうりばも混雑しています。JRのきっぷうりばのキャパシティが小さいため、混雑がひどい傾向があります。
ネット予約サービスを利用して購入
【日本人・永住者向け】
日本語の画面を理解できる場合、会員登録して利用する「えきねっと」というウェブサイトから、おトクなきっぷを購入できます。所定料金の特急券の他、早い者勝ちで「在来線チケットレス特急券(トク割)」を約35%割引で購入できます。
【外国人観光客向け】
外国人観光客向けのネット予約サービスには、「JR-East Train Reservation」があります。一個の列車のきっぷは定価発売のみですが、外国人観光客だけが購入できるおトクなパス類を当該サイト上で購入できます。
成田エクスプレスを往復利用する場合、「N’EX TOKYO Round Trip Ticket」を5,000円で購入できます。
各ネット予約サービスのURLについては、当記事末を参照願います。
京成電鉄の特急列車「スカイライナー」
次に、「スカイライナー」に関する詳細についてご説明します。
運行区間・所要時間・運行本数
成田空港から日暮里駅/京成上野駅までの区間を結んでいます。その中には、途中駅に停車しないタイプの列車と、途中駅に停車するタイプの列車があります。
● 途中駅無停車型の列車(列車番号2桁)
空港第2ビル駅から日暮里駅までの途中駅には停車しません。成田空港駅から京成上野駅までの所要時間は44分で、日中1時間あたり2本運行されています。
● 途中駅停車型の列車(列車番号100番台)
途中駅の新鎌ヶ谷駅と青砥駅に停車します。成田空港駅から京成上野駅までの所要時間は50分で、日中1時間あたり1本運行されています。
列車の運行時刻については、以下のウェブサイトを参照願います。
列車の設備
座席の設備は、普通車(Second Class)のみです。列車は8両編成で、定員は400名弱です。成田エクスプレスと同様に全車指定席で、座席指定された特急券を乗車前に購入します。
スーツケース用の荷物置き場が、各車両の出入口近くに完備されています。定員分の収納スペースがないため、できるだけ早く乗車して手荷物を収納したいです。
各座席の下には100Vの電源コンセントがあり、無料WIFIも利用できます。
運賃・料金(Second Class)
スカイライナーに乗車するには、運賃(Base Fare)の他に、スカイライナー料金(Liner Ticket)がかかります。
乗車区間 | 運賃 | スカイライナー料金 | 合計金額 |
成田空港→日暮里駅 | 1,280円 | 1,300円 | 2,580円 |
成田空港→京成上野駅 | 1,280円 | 1,300円 | 2,580円 |
通年同額設定のため、シーズンによる値段の変動はありません。
きっぷの買い方
京成スカイライナーのきっぷを購入する時は、スカイライナーの着駅までのきっぷを購入します。そして、乗り換える駅でその先のきっぷを別に購入します。
駅・旅行会社で購入
駅の窓口で駅員からきっぷを購入するか、指定席券売機を操作してきっぷを購入します。当該券売機は、英語・中国語・韓国語にも対応しています。駅で購入する場合は運賃・料金の割引はなく、所定の金額を支払います。
時間帯によっては、駅のきっぷうりばが混雑します。JRのきっぷうりばに比べれば処理能力が高く、待ち時間は思ったよりも長くないでしょう。
主要な旅行会社でも、スカイライナーのきっぷを購入できます。会社によっては、取扱手数料を徴収される場合があることに留意しましょう。
ネット予約サービスを利用して購入
【日本人向けサイト】
ネットで予約購入した場合、紙のきっぷを受け取ることなくチケットレスで乗車できます。特急料金の割引はなく、乗車券が別に必要です。会員登録してもしなくてもネット予約サービスを利用できます。
【外国人向けサイト】
日本国籍以外の外国人向けに「Skyliner eticket」というきっぷがあります。日本人向けのネット予約サービスと違い、運賃・料金が割引されます。
成田空港から日暮里駅/京成上野駅までの運賃・料金が、定価の2,580円から2,310円まで割引されます。外国国籍であることを確認するため、ネット上の申込画面で個人情報の入力が必要です。
各ネット予約サービスのURLについては、当記事末を参照願います。
電話で予約して購入
チケット予約センターに電話すると、座席を仮に押さえてもらえます。ただし、所定の期限までに京成上野駅で決済する必要がある上、当日購入に対応していません。購入手段としては、かなり限定的です。
各列車の強み・弱み(メリット・デメリット)
それぞれの列車に関する詳細を理解できたところで、強みや弱みについて深掘りしたいと思います。
各列車の強み
それぞれの列車の強みについて考えます。
成田エクスプレス
外国人にとっては、「Japan Rail Pass」をはじめとした各種JRパス類を使えることが最たるメリットです。グリーン車用のJapan Rail Passを持っていれば、成田エクスプレスのグリーン車を利用できます。
パスを購入せず、所定金額の乗車券や特急券を購入する場合でも、最終目的地までのきっぷを一度で購入できます。乗車券については最終目的地まで通しで運賃計算されるため、運賃の節約につながる場合があります。
また、きっぷを購入する際には、外国人向けの窓口「JR East Travel Service Center(駅たびコンシェルジュ)」を利用できます。英語を話せる専任のスタッフによる、きっぷの買い方に関するサポートを期待できます。
京成スカイライナー
所要時間の短さ、運賃・料金の安さは、京成スカイライナーに分があります。
新線区間を長く走るため、揺れが少なく、乗り心地が比較的良いです。また、青砥駅に停車する列車(号数が100番台の列車)に乗車できれば、青砥駅で列車を乗り換えて、浅草や銀座、羽田空港にスムーズにアクセスできます。
また、JR成田エクスプレスよりも輸送力が高いため、列車が満席になる可能性が比較的低いと言えます。空港に着くまで事前予約をしにくいのが空港アクセス列車の特徴ですが、間際になってもきっぷを買えるのは心強いことです。
各列車の弱み
上述した強みがある一方で、弱みとなる点もいくつかあります。
成田エクスプレス
列車の運行本数および列車の定員が、京成スカイライナーよりも少ないです。そのため、輸送力は比較的低めです。
JR線の在来線を走るため、所要時間が比較的長いです。また、乗り心地の面では、列車の揺れが気になるかもしれません。
値段の面でも京成スカイライナーより高いため、総合的には不利だといえるでしょう。
京成スカイライナー
京成電鉄のネットワークが日暮里駅および京成上野駅で終わってしまうため、最終目的地に向かうには、他鉄道会社の路線への乗り継ぎが発生します。したがって、目的地によっては所要時間がかかりがちです。
また、きっぷを買える範囲が、京成電鉄の各駅およびJR山手線内の各駅までに限られます。その先の駅に向かう場合は、改めてきっぷを買いなおす必要があります。
普通列車もあるけれど
JR東日本、京成電鉄ともに、特急料金がかからず、運賃だけで乗車できる普通列車が運行されています。普通列車を利用すれば、旅費の節約が可能です。
JR成田線快速列車は、概ね1時間間隔で運行されていて、東京駅や横須賀線各駅に直通しています。東京駅までの所要時間は、約1時間30分です。
京成電鉄アクセス特急は概ね40分間隔で運行されていて、羽田空港に直通しています。終点までの所要時間は、約1時間30分です。
しかし、乗車する時間帯によっては、通勤時のピーク時間帯にかかります。列車が非常に混雑するため、スーツケースを持っての移動が困難な場合があります。
また、座席数が少ないため、座れずに立っての移動となる可能性がある場合があることを念頭に置きたいです。
まとめ ~どちらの列車を選択するか~
成田空港から東京に向かう列車には、JR東日本が運行する特急「成田エクスプレス」と京成電鉄が運行する「スカイライナー」があります。
いずれの列車も、全車指定席の特急列車です。特急料金がかかるものの、座って快適に移動できます。
列車の運行本数が多く、運賃・料金が安いのは、京成スカイライナーです。東京都心部に滞在するのであれば、利便性の高い京成スカイライナーがファーストチョイスです。
一方、JRの成田エクスプレスは、東京駅での新幹線への乗り継ぎや東京西部へのアクセスに優れています。また、JRが発売する外国人観光客向けの各種パス類で成田エクスプレスにも乗車できます。JRの列車で日本国内を周遊する場合、成田エクスプレスを利用すると便利でしょう。
いずれの列車も指定券を購入するため、券売機の操作が煩雑です。要領を得ない場合、有人窓口できっぷを購入することをおススメします。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Appendix:鉄道会社ネット予約サービスのURL一覧
本文でご紹介した各ネット予約サービスにアクセスするためのURLは、以下の通りです。
日本国内在住者向け
● 京成電鉄「スカイライナーインターネット予約サービス」【日本語】
外国人短期訪問者向け
● 京成電鉄「Skyliner e-ticket」【英語・中国語・韓国語】
参考資料
● N’EX (Narita Express) | Train & Routes(JR東日本)2024.7閲覧
● スカイライナー/成田空港アクセス(京成電鉄)2024.7閲覧
● 房総特急便利におトクに(JR東日本)2024.7閲覧
当記事の改訂履歴
2024年9月14日:初稿 修正
2024年7月03日:初稿 修正
2024年6月23日:初稿 修正
2024年6月17日:初稿 修正
2024年6月03日:当サイト初稿
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