近年、大雨や台風による列車の運休や遅延が、しばしば発生するようになりました。特に、東海道新幹線が大雨に見舞われ、運行が見合わせになる様子が、そのたびに報道されます。
また、鉄道施設の経年劣化による障害も、たびたび発生しています。
これから旅行を予定している場合、旅行そのものを中止できたら無難です。しかし、他の交通機関や経路で迂回して旅行を決行するか、判断が迫られることもあり得ます。
旅行を取り止めることにした場合に気になるのが、キャンセル料です。平時には、一定額のキャンセル料(きっぷの払戻手数料)がかかります。それでは、列車の運休や遅延といった事故が発生した場合、キャンセル料はかかるのでしょうか。
列車の運休時には、キャンセル料(払戻手数料)はかかりません。ただし、きっぷの変更や払いもどし以外の補償は一切ありません。ケースによって取り扱い方が複雑なので、その都度駅員への確認をおススメします。
この記事では、悪天候や災害、鉄道施設の障害によって列車が運休した場合のJRきっぷの取り扱いについて、筆者のエピソードを交えてユーザー視点でご説明します。
キャンセル料の負担を懸念して無理に旅行を決行し、旅行先でトラブルに見舞われることは事前に回避したいところです。当記事を通して、キャンセル料の扱いについてご理解いただきたいと思います。
事故時にはキャンセル料(払戻手数料)は不要
台風や大雪といった状況、あるいは線路の故障といった状況では、列車が正常に運行されなくなることが予想されます(これらの状況をまとめて「事故」と呼びます)。
悪天候で障害が想定されるような場合、列車の計画運休があらかじめ発表されることが多くなりました。
すでにきっぷを買っていたにもかかわらず列車が運休となると、旅行の楽しみが失われるだけではなく、きっぷのキャンセル料も心配しなければなりません。
列車の計画運休や運行見合わせは、たとえ天候が原因であっても、鉄道会社の都合に当たります。したがって、旅行を見合わせる場合には、キャンセル料はかからないのが基本です。
列車が運行しない場合、そもそもきっぷを発売しないのが原則です。しかし、きっぷをすでに購入していてこれから旅行しようとしている場合や、すでに列車に乗っている場合も考えられます。
このようなケースに遭遇した場合、払戻手数料なしでのきっぷの払いもどしを受けられることを覚えておきたいです。
ただし、運休や遅延に関しては、取り扱いが多岐に渡る上、その都度取り扱いが変わることがあります。そのため、鉄道会社や駅員からの案内を注視していただきたいです。
悪天候で列車が運休になったエピソード
列車が運休になるといっても、列車に乗車する前に運休が確定する場合と、乗車後に運行が打ち切られてしまう場合がそれぞれ考えられます。
このような事態が発生する確率はもともと低いのですが、筆者もそれぞれのケースに遭遇したことがあります。それらの場面を、最初にご紹介しておきたいと思います。
旅行開始前の事例:特急「かいじ」号
果物狩りで山梨県に出かけようと思い、新宿駅(東京都新宿区)から甲府駅(山梨県甲府市)まで特急「かいじ」号に乗車しようとしていました。その時、折しも台風に遭遇してしまい、旅行を決行するかキャンセルするか迷いました。天候が絡む場合の判断は、難しいものです。
その時、東海道新幹線を運行するJR東海では、運休に当たって無手数料で払いもどしできる措置がいち早く講じられました。しかし、特急「かいじ」号を運行するJR東日本からは、旅行の取りやめについて何ら告知がありませんでした。
結局、この列車は運休にならず、大雨の中、予定通り旅行しました。仮にキャンセルするとしたら払戻手数料を支払うことになっただけに、JR東日本の対応の鈍さが今でも印象に残っています。
旅行開始後の事例:特急「サンダーバード」号
北陸新幹線が開業する以前、金沢駅(石川県金沢市)から大阪駅(大阪市北区)まで移動するために、特急「サンダーバード」号に乗車しました。途中で通過するJR湖西線は、強風のため運行見合わせになることが多い路線です。
筆者が乗車した時にも、JR湖西線で障害が発生しました。まさに湖西線に入ろうとしていたところで、近江塩津駅(滋賀県長浜市)で立ち往生してしまいました。
この列車の運行がこの駅で打ち切りになってしまったため、後続の特急列車に乗車。米原駅(滋賀県米原市)経由で大回りした結果、大阪駅にはかなり遅れての到着でした。
後続の特急列車に乗車し、遅延して着駅に到着した場合、特急料金が全額払いもどしされます。これは、JRの運送約款である「旅客営業規則」に則った所定の措置です(いわゆる「急乗承」と呼ばれる取り扱い)。
この時のJR西日本の対応はスムーズで、大阪駅で特急料金の返金を受けました(乗車券については返金されません)。
最初に、きっぷのキャンセルに関する一般的な原則を押さえましょう!
JRきっぷのキャンセル・変更に関する原則
きっぷの使用開始前かつ列車の出発時刻前であれば、乗車する日にちや区間の変更(乗車変更)や、きっぷの払いもどし(キャンセル)が可能です。列車の出発時刻前に、いずれかの手続きが必要です。
きっぷの払いもどし
この先旅行する予定がない場合には、きっぷを払いもどします。
ユーザーが任意に旅行をキャンセルしたい場合、一定の条件において所定の払戻手数料を差し引いた残額が戻ってきます。JR各社の場合、きっぷの払戻手数料は、券種によって次の通りです。
乗車券類の券種 | 1枚当たりの払戻手数料 | 備考 |
普通乗車券(片道・往復・連続) | 220円 | 220円に満たない場合券面額(往復・連続は1セットで1枚とみなす) |
自由席特急券 | 220円 | |
指定席特急券 | 340円 | 2日以内の払いもどしは料金の30% |
グリーン券(指定席) | 340円 | 2日以内の払いもどしは料金の30% |
座席未指定券 | 340円 |
このうち、指定券については、乗車日の前日と当日に手続きした場合、料金の30%相当が払戻手数料として課されます。
払戻手数料に関しては、大人・小児の区別はありません。上表の金額は、きっぷ1枚当たりのものです。
きっぷの乗車変更
ただし、この先旅行の予定がある場合、早計にきっぷを払いもどさないでください。きっぷは、1回に限って手数料なしで乗車変更ができます(厳密には「乗車券類変更」と呼びます)。
ただし、乗車変更を行う場合、変更可能な券種は限られます。券種ごとに細かく規定されていますが、主なところでは下表の通りです。
変更前の券種 | → | 変更後の券種 | 備考 |
普通乗車券(片道・往復・連続) | → | 普通乗車券(片道・往復・連続) | 片道・往復・連続相互間の変更が可能 |
自由席特急券 | → | 自由席特急券・指定券 | 指定券への上位変更が可能 |
自由席グリーン券 | → | 自由席グリーン券・指定券 | 指定券への上位変更が可能 |
指定券 | → | 指定券 | 満席の場合は自由席特急券(下位変更)も可能 |
乗車変更に関して覚えておきたいのは、上表の範囲内であれば同じ区間や設備に限らず、他の区間や列車であっても自由に変更できる点です。長距離きっぷを短距離きっぷに変更できることを知っておくと、おトクです。
指定券について乗車日の前日もしくは当日に乗車変更を申し出た場合、変更後のきっぷの券面には「2日以内に変更」と印字されます。出発間際の指定券の払戻手数料を取りこぼさないようにするための措置です。
きっぷを払いもどす前に、乗車変更できる可能性はないか検討することを、常々心がけるとよいでしょう。
それでは、列車が運休になった場合の取り扱いについてご説明します!専門用語が多く出てきますが、覚えなくても大丈夫です。
列車が運休・運転打ち切りとなった場合のきっぷの取り扱い
列車の運行が見合わせになったり、遅延が生じたりすること自体が、イレギュラーなことです。そのため、原則を踏まえつつ、臨機応変な対応が実施されます。
事故が発生した場合、各駅やウェブサイト上できっぷの取り扱い方がその都度告知されます。ユーザーは、その指示に従うことになります。
特に、旅行開始後にこのような場面に遭遇したら、駅員に詳細を確認するようにしたいです。その場限りの特別扱いが行われているケースが、時にはあります。
きっぷの発売前における取り扱い
列車が運休した場合、運行が再開するまできっぷの発売は停止されます。したがって、まだきっぷを持っていない場合は、きっぷの払いもどしや乗車変更を考慮する必要はありません。
その代わり、運送契約が成立していないため、きっぷの無手数料払いもどしや経路外乗車などの便宜を受けることは一切できません。
旅行開始前における取り扱い
すでにきっぷを購入しているもの、乗車当日に改札口を入る前であれば、旅行開始前としての取り扱いを受けられます。ただし、基本的には以下の措置に限られます。
ある経路で不通区間が生じたため、他の経路に変更したいと思った場合でも、変更後の経路が長くなれば運賃・料金が追徴されます。
(一般的な)乗車券類変更
まだ乗車変更をしたことがないきっぷであれば、上述した通り、1回だけきっぷの乗車変更を受けられます(乗車券・料金券とも対象)。
乗車区間を変更せず、乗車日と乗車する列車だけを変更する場合も、乗車変更に含まれます。
この場合、事故であるか否かを問わず、乗車変更のための手数料はかかりません。きっぷを払いもどす前に、乗車変更できないか検討しましょう。
無手数料での払いもどし
乗車券であるか、料金券であるかを問わず、払戻手数料を支払うことなく、購入したきっぷの全額が払いもどしされます(規則第282条の2)。
事故によってきっぷを払いもどす場合の期限は、当該事故の発生日の翌日から1年間と覚えておきましょう(初日不算入:規則第238条第2項)。
着駅に限らず、日本全国のJR駅みどりの窓口にて手続きできます。当日、発駅のみどりの窓口で長い列に並ぶ必要はありません。
ネット予約サービス上できっぷを購入した場合、自動的に払いもどしされるか、自分で操作を行う必要があるかを、当該ウェブサイト上でよく確認しましょう。
事故による列車変更扱い(事故列変)
旅行開始前かつ、措置の対象となる指定券に限られますが、乗車変更に際し「事故列変」と呼ばれる特例が適用されることがあります(規程第371条)。
きっぷに表示された列車の乗車日と同日に出発する他の列車に変更する場合、過剰額は払いもどし、不足額は収受しないこととされています。
また、同日中の指定席が取れずに立席や自由席を利用した場合、特急料金の半額(およびグリーン料金の全額)が払いもどしになります。
これは、運休列車について他の列車に振り替えを行うための、限定的な措置です。手続きを行う際、適用の有無を駅員に確認してください。
旅行開始後における取り扱い
乗車日に改札口に入場した後、事故が発生した場合、旅行開始後としての取り扱いを受けられます。以下の取り扱いのうち、いずれかが自分のニーズに合っている場合、当該取り扱いを受けたい旨を駅員や乗務員に申し出るとよいでしょう。
乗車開始前の取り扱いに比べ、手厚い措置であると言えます。
無賃送還
列車の事故によって旅行の目的を達成できなくなった場合、旅行を中止して発駅まで戻ることが可能です。その場合、購入したきっぷの払いもどしを受けられます(規則第284条)。
途中駅で改札口を出ている場合、発駅からその途中駅までの分(すでに旅行を完了した分)を除いた残額が、途中下車していない場合は全額が払いもどしとなります。
きっぷの有効期間の延長
事故によって時間の損失が発生しているため、きっぷの有効期間を延長できます(規則第283条)。ただし、目的地に一刻も早く向かいたいユーザーがほとんどであるため、この措置を選択するユーザーはほとんどいないと思います。
他経路乗車
運休となっている区間を迂回して、着駅まで旅行を続けることが可能です(規則第285条)。ただし、基本的には最短経路を迂回することとされています。なお、迂回乗車する区間上で特急列車(普通車・グリーン車)に乗車する場合は、当該料金券をユーザーの負担で別途購入する必要があります。
他鉄道会社への振替輸送も、他経路乗車の一種と言えるでしょう。
後続の急行列車乗車承認(急乗承)
筆者のエピソードとして前述した通り、事故によって旅行開始後に特急列車の運転が途中で打ち切られることがあります。
その場合、後続の特急列車に乗車し、着駅には遅れて到着することになります。運行不能になった場合、もしくは2時間以上の遅延が生じた場合には、特急料金が全額払いもどしになります(規則第289条第2項)。
後続の急行列車への乗車をユーザーが承認する形となるため、この取り扱いを略して「急乗承」と呼びます。乗車券については、払いもどしの対象にはなりません。
東京駅着となる特急列車の場合
東京駅ゆきの新幹線および在来線特急列車に乗車し、下記の駅まで到着したものの、その先終着駅までの運転が打ち切りになった場合、その駅が下車駅とみなされます。この場合、特急料金の差額計算を行い、過剰額が払いもどしになります(規則第290条)。この規定の対象列車は、以下の通りです。
- 東海道新幹線:品川駅(東京都港区)
- 東北・上越・北陸新幹線:大宮駅(さいたま市大宮区)
- 特急「踊り子」「サフィール踊り子」号:品川駅
- 特急「ひたち」「ときわ」号:上野駅(東京都台東区)
その他の措置
上記の規定にかかわらず、その場限りの取り扱いが特別に認められる場合があります。ただし、鉄道会社側が積極的に案内したがらない場合があるので、ユーザー側からも積極的に問い合わせる必要があるでしょう。
例えば、東海道新幹線の不通時に、東海道新幹線経由の乗車券で北陸新幹線への迂回乗車が特別に認められた事例があると聞いています(前述した他経路乗車に関連して)。
列車が遅延した場合のきっぷの取り扱い
目的地の駅に到着したものの、所定の時刻よりも到着が遅れることが考えられます。この場合、運送自体は完了しているため、乗車券の払いもどしはありません。
ただし、特急列車について所定の到着時刻よりも2時間以上遅れた場合、すでに支払った特急料金は全額払いもどしになります。
JRから受けられる補償はきっぷの変更や払いもどしのみ
JRの場合、列車の運行不能時に受けられる補償は、前述したきっぷの払いもどしや乗車変更といった措置のみです。JR各社の運送約款である「旅客営業規則」では、その他の補償を請求できない旨定められています(規則第290条の3)。
したがって、JR以外の交通手段への振り替えや宿泊施設の手配といった措置は一切受けられないことを覚えておきたいです。
旅行会社で購入した旅行商品(募集型企画旅行)を利用して列車に乗車した場合は、事故にあった旨を旅行会社に報告し、指示を仰ぎます。旅行業約款に基づく補償の対象に該当し、補償を受けられる可能性があります。
まとめ
大雨や台風、大雪といった悪天候や鉄道設備の障害が発生した場合、列車の運行が見合わせになります。その場合、予定していた旅行をキャンセルすることになります。その際、購入しておいたきっぷの扱いが問題になります。
このような事由をまとめて「事故」と呼びますが、たとえ不可抗力であっても、鉄道会社都合という扱いになります。事故によるきっぷの払いもどしの取り扱いが行われる場合、駅やウェブサイトにその旨告知されます。
事故が発生した場合の取り扱いは、すでにきっぷを持っているかどうか、旅行開始前であるか旅行開始後であるかによって、大きく異なります。
旅行開始前に旅行を取り止めることにした場合、平常時にはかかる払戻手数料がかかりません。また、他の列車に振り替える場合、無料で乗車変更が可能です。
旅行開始後に列車の運行が打ち切りになった場合、発駅までの無賃送還、他経路乗車で着駅に向かうことなどを選択できます。また、特急列車に乗車中であった場合、後続の特急列車に乗車して特急料金の払いもどしを受けられます。
JRの運送約款上、事故が発生した場合の補償として、きっぷの払いもどしおよび乗車変更以外の措置が規定されていません。したがって、他の交通機関への振替や宿泊施設の手配などの代替措置がないことに留意したいです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 事故などの場合の取り扱い(JR東海) 2024.8閲覧
● JR旅客営業制度のQ&A(自由国民社)2015.3
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第282条(列車の運行不能・遅延等の場合の取扱方)他
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程 第371条(列車の変更の特殊取扱方)他
当記事の改訂履歴
2024年9月03日:初稿 修正
2024年8月29日:当サイト初稿
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