JR四国が愛媛県内で運行している観光列車のフラッグシップ「伊予灘ものがたり」。
松山駅(愛媛県松山市)をベースに、予讃線の海線、通称「愛ある伊予灘線」を経由し、伊予大洲駅(愛媛県大洲市)および八幡浜駅(愛媛県八幡浜市)までの区間を、週末を中心に運行しています。
伊予灘ものがたりに乗車すると、上質な空間での食事を楽しみつつ、アテンダントや沿線の人々からのおもてなしを体験できます。サービスを提供する姿勢がユーザー本位で、通りいっぺんのサービスに留まることがありません。
そんなわけで、この列車のサービスやホスピタリティーには定評があり、強い支持を得ています。その分、列車の予約(指定券の確保)が難しく、乗車するまでに越えるハードルが高いです。

伊予灘ものがたりの車内では、上質でありながらリーズナブルに食事を満喫できます。車内でとる食事がお値段以上に満足できる内容なので、事前に申し込みすることを強くおススメします!
この記事では、筆者が実際に「伊予灘ものがたり」双海編および道後編に乗車した体験をもとに、列車の車内探訪、車内にていただいた食事、車内でのサプライズなど、乗車してからの体験をお伝えしたいと思います。写真の枚数が多いですが、どうぞお付き合いください。
- 食事については当日の注文が不可能で、事前に手配しておく必要があること
- 軽食や菓子、ドリンクについては、予約なしでも車内で注文できること
- 誕生月や誕生日に乗車すると、サプライズがあること
「伊予灘ものがたり」に乗車するまで ~指定券の確保に苦心~

観光列車「伊予灘ものがたり」に乗車するための前提として、きっぷの購入に関することを最初に押さえておきます。
観光列車の多くは旅行商品(募集型企画旅行)として発売されていますが、「伊予灘ものがたり」については通常のきっぷを購入する形です。
この列車は全車グリーン車のため、基本的には乗車券および特急券・グリーン券を購入します。ただし、グリーン車を利用できるフリーきっぷを利用したり、セット商品(特別企画乗車券)を購入して乗車したりと、きっぷの購入一つとってもいくつかのパターンがあります。
冒頭で申し上げた通り、伊予灘ものがたりは非常に人気があることから、指定券の確保が困難です。団体枠に一定の席数が割り当てられていて、個人で取れる席数に限りがあることもその一因です。
指定券を取るのが難しい中で、席をいかに確保するか考えてみました。料金や指定券の取り方に関しては、以下の記事(↓)をぜひご一読ください。

それでは「伊予灘ものがたり」の車内を探訪しましょう!
「伊予灘ものがたり」の車内探訪
筆者が最初に「伊予灘ものがたり」に乗車したのが、伊予大洲駅発松山駅ゆき「双海編」でした。
伊予大洲駅で列車を待つ

伊予大洲駅には、余裕をもって宇和島駅から特急「宇和海」8号で入りました(時間的にちょうどいいのは「宇和海」10号)。

9時30分に到着しましたが、伊予灘ものがたりの入線まで時間があったので、肱川の河原まで歩いて大洲城を眺めました。

伊予大洲駅に戻り、早めに伊予灘ものがたりが入るホームへ。列車に積み込む食事が、すでに搬入されていました。入線時刻の10時28分の少し前にアテンダント4名がホームに登場し、筆者と一緒に列車を出迎え。
列車から伊予灘ものがたりのメロディが聞こえてきて、驚きました。
エクステリア(車外のようす)

発車15分前にドアが開くまで、車両を外から眺めました。列車はキハ185系の3両編成で、1号車(茜の章)は赤色の車体です。

1号車の入口。足元にマットが敷かれています。

2号車(黄金の章)はその名の通り黄色い車体です。グリーン個室の3号車(陽華の章)も、2号車と同じく黄色い車体です。

1号車同様、2号車の入口にもマットが。
インテリア(車内探訪)

10時45分に車内の準備が完了し、筆者が乗車する2号車に入りました。2号車のデッキにはトイレと洗面台があります。

洗面台は砥部焼の陶器で、非常に上品です。

その近くに、記念乗車証、スタンプ台、俳句ポストが置いてあります。

2号車の車内。シートの色はライトグリーンでまとめられています。グリーン車だけあって、各座席はゆったりしています。山側は2人掛けのテーブル席です。

写真左方の座席(2号車12番から14番)は、2人掛けのペアシートです。2人が密着する造りなので、他人との相席はできれば避けたいです。このレイアウトを知らない出札係員がこの席を売ろうとしてくるので、2人利用でなければ買わないよう、ご注意を。

2号車の奥の方の座席は1人掛けです。2号車5番の席は身障者用の席として空けてあるようで、愛媛県のキャラ「みきゃん」が座っています。

2号車から1号車に移動。乗客はあまり通らない場所です。アテンダントが食事の給仕をするためのバックヤードです。

1号車の車内。シートの色は、はっきりしたグリーンです。2号車と同様、インテリアは意外にカジュアルです。海向きのカウンターシートには一人掛けの座席が並んでいます。

1号車の入口近くの海側には、4人掛けのボックスシートが配置されています。

個々の座席にはクッションが置かれ、くつろげるようになっています。

各座席に1つ、USBポートが設置されています。コンセントは付いていませんが、USBケーブルを持参すればスマホの充電ができます。

車内では、無料WIFIも利用できます。接続するときに、この画面が表示されます。

それでは、お楽しみの食事をご紹介します!
伊予灘ものがたりの本格的な食事を満喫!
伊予灘ものがたりでは車内のおもてなしや沿線風景を楽しむだけではなく、車内で提供される本格的な食事を味わうのが王道です。
当記事では、伊予灘ものがたりで提供される食事のうち、筆者が実際に乗車した双海編のランチと道後編のアフタヌーンティーをご紹介します。
双海編【ランチ】
午前中に伊予大洲駅を出発する双海編では、ランチとして和膳をいただけます。きっぷを買うだけではなく、乗車4日前までに食事を手配(食事予約券を購入)する必要があります。当日車内ではオーダーできないので、事前に手配をお忘れなく。

筆者は、JR西日本のウェブサービス「tabiwa by WESTER」から食事予約券をオンライン決済しました。このような電子チケットを使用する形です。

使用を開始した電子チケット。この画面を、列車が発車する前にアテンダントに提示します。

席に座ると、持ち帰ることができるメニューが置いてあります(メニューの内容はウェブで参照可能)。食事を予約しなくても、アルコールやおつまみ、スイーツ程度は注文できますが、空腹を満たせる食事ではありません。車内で食事が提供されるので、水やお茶以外の飲食物は持ち込み禁止です。

紫色のメニューの横には、予約した食事の献立が置いてあります。食事のメニューは、2か月ごとに変わりますが、乗車した際のメニューは2023年5、6月用でした。

列車が発車してしばらくすると、アテンダントが和膳を給仕してくれます。双海編のランチは、からりさんの「からり和杉膳」で、杉製の容器に料理が入っています。多くの観光列車では使い捨てのプラスチック容器が使用されますが、伊予灘ものがたりでは使い捨てではないしっかりした容器が使用されています。

ふたを開けた状態です。小鉢が9個と天ぷら、ご飯の巻物が盛り付けられています。ボリュームが少なそうですが、十分空腹を満たせます。御膳と合わせ、ミネラルウォーターと温かい汁物と椀物が提供されます。列車車内で温かい料理が出され、なかなか本格的です。

食後には、温かいブレンドコーヒーが出されます。食事にはアルコール類が含まれていないので、飲みたい場合は別会計で注文します。列車特製のカクテルがおススメです。

ちなみに、別の機会にとったのが、和菓子セットです。和菓子と抹茶がセットになっています。食事を手配しなかった場合、いただくとよいと思います。
道後編【アフタヌーンティー】
夕方に八幡浜駅を出発する道後編で提供されるのは、ボリュームあるアフタヌーンティーです。これも、乗車日の4日前までに食事予約券を購入する必要があります。

筆者は、JR西日本のウェブサービス「tabiwa by WESTER」から食事予約券をオンライン決済しました。このような電子チケットを使用する形です。

使用を開始した電子チケット。この画面を、列車が発車する前にアテンダントに提示します。

予約した食事の献立です。料理は2か月ごとに入れ替わりますが、今回は2023年5、6月用のメニューです。

列車が発車すると、アテンダントが食事を給仕してくれます。サービスは、ホテルのレストラン並みのクオリティーです。最初に運んでくれたのは、料理が入った砥部焼の器とカトラリーです。器は重量があり、質感もよく、しっかりした造りです。器は、一つ一つ絵柄が違います。

そして、カップと紅茶が入ったポットを持ってきてくれました。このカップも砥部焼で、一つ一つデザインが異なります。主食にはスコーンとサンドイッチ、お菓子にはマカロンやタルト、ムースやフルーツが入っています。これも見かけ以上にボリュームが多く、満腹になります。ちょっと早い夕食という感じです。

ジャムは、伊予灘ものがたり特製です。細かなところにも配慮されています。
列車のサービスのハイライトだけあって食事代金は値が張りますが、値段に負けないだけのクオリティーです。食事をとる人が大半なので、食事をとらないと満足感が得られないと思います。ここは躊躇せず、食事を予約することを強くおススメします。

ここからは、列車が発車した後の様子です。
車内や沿線の人々のおもてなしを満喫 ~列車発車後のようす~

先に食事のお話をしましたが、伊予大洲駅発車時刻まで時間を巻き戻します。
最初に乗車したのが双海編で、その後同日の道後編にも乗車しました。いずれの列車でもサービスの内容は同じなので、双海編に乗車した際の道中をお伝えしたいと思います。
車内や沿線からのおもてなし
双海編:
伊予大洲駅 10時58分発 → (予讃線 海線経由)→ 松山駅 13時02分着

発車時刻が近づくと、乗客が三々五々集まってきて、車内は大体満席になりました。ラッキーなことに、筆者は他の人と相席になることがありませんでした。
この列車に乗務するアテンダントの多さが目を惹きます。そのため、きめの細かいサービスを受けられます。乗合の場合と貸切の場合とで乗務するアテンダントの数が変動するそうですが、概ね8名体制とのことです。

大洲城の兜をかぶった地元の方に見送られ、10時58分に伊予大洲駅を発車。予讃線の海線に入っていきます。

伊予大洲駅の次の駅が、五郎駅(愛媛県大洲市)。この駅のおもてなしが見ものです。たぬき駅長さんが手を振ってくれています。伊予長浜駅(愛媛県大洲市)を通過するまで、何か所かで沿線の人々が手を振ってくれました。

伊予長浜駅から先は、伊予灘沿いをゆっくりと走っていきます。喜多灘駅(愛媛県大洲市)で大洲市から伊予市に入ります。

そして、道中のハイライト、下灘駅(愛媛県伊予市)に到着。ここで10分間程度停車し、駅のホームに降りることができます。

下灘駅が観光スポットになり、大勢の人でにぎわっていました。

キッチンカーが営業しているほど、観光客が多いです。

下灘駅を過ぎてからしばらくゆっくり走り、伊予上灘駅に着きました。

この駅で停車中、食べ終わった食事の容器が下ろされていました。犬と猫が迎えてくれますが、この日はご機嫌ナナメだったようで。
松山駅到着前のサプライズ
伊予上灘駅を出発した後は、終点の松山駅に向けて一路ひた走ります。アテンダントの車内サービスも、伊予上灘駅で終了です。

松山駅が近づいて来ると、アテンダントがメッセージを読み上げてくれます。あらかじめ俳句ポストにメッセージを書いて投函すると、終点間際で読み上げてくれるわけです。

そして、筆者にもサプライズが。うれしいことに、アテンダントが手書きのバースデーカードを贈ってくれました。メッセージの内容には心がこもっていて、良い意味で驚きました。アテンダントにバースデイきっぷをあらかじめ見せていたので、誕生日が近いことが分かるわけです。列車の乗車日がもしも誕生日と一致するとビンゴで、さらなるサプライズがあるとアテンダントがおっしゃっていました。
アテンダントがすべての乗客に挨拶が終わったタイミングで、終点の松山駅に到着。
お土産をいただく

伊予灘ものがたりに乗車すると、食事をとらなくてもおみやげが付いてきます。筆者が乗車した双海編では伊予市名産のびわ葉茶、道後編では道後温泉にちなんだ入浴剤をいただきました。
車内でのおもてなしにとどまらず、記念にお土産を持ち帰ってもらうのは細やかな配慮だと感じました。
おわりに ~おもてなしに感謝~

筆者が伊予灘ものがたりに初めて乗車したのが2016年1月でしたが、今回2023年6月にも再び乗車する機会を得られました。その間に初代から二代目に変わっていましたが、おもてなしのコンセプトは変わらずに、列車の設備や車内サービスがパワーアップしていました。
伊予灘ものがたりの指定券が取りにくいのが唯一の難点ですが、人気の裏返しなのでやむを得ないことです。
全車グリーン車の車内はとてもゆったりしていて、乗車していて快適です。ただし、2号車12番から14番にかけての2人掛けペアシートは距離が近いため、他人との相席はおススメしません(1人利用でも2席分を買うとよいでしょう)。
伊予灘ものがたりの醍醐味は食事にあるので、事前手配を忘れずに行っておきたいです。各列車で食事内容が異なり、メニューも2か月で入れ替わるので、いつ乗車しても飽きが来ないでしょう。
そして、何よりすごいのが、アテンダントのサービスの質。乗客50名に対してアテンダントが8人も付き、密度の高いサービスを提供してもらえます。食事の給仕が主な業務ですが、所作がホテルのレストランのウェイター並みにレベルが高いです。
全国には数多くの観光列車が走っていますが、ここまでサービスが上質な列車はなかなかありません。旅行商品ではなくきっぷで乗車できる観光列車としては、日本でトップクラスの列車と言えるのではないでしょうか。
普段辛口なコメントを多く吐く筆者ですが、今回は非を見出すことがないほど完璧なサービスでした。バースデーメッセージのように、心をくすぐるようなサービスにも感銘しました。この場を借りて、アテンダントには感謝申し上げます。
参考資料
● 観光列車「伊予灘ものがたり」(JR四国)2025.02閲覧
● 空席状況|伊予灘ものがたり(JR四国)2025.02閲覧
● tabiwa by WESTER 伊予灘ものがたり食事予約(JR西日本)2025.02閲覧
当記事の改訂履歴
2025年02月25日:初稿 修正
2025年02月06日:当サイト初稿(リニューアル)
2023年7月14日:前サイト初稿
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