日田彦山線BRT「ひこぼしライン」運賃制度ときっぷの完全ガイド~完乗体験を踏まえて深掘り~

ひこぼしラインBRT車両 鉄道旅行

福岡県北九州市の小倉駅から大分県日田市の日田駅までの区間を結ぶ、JR九州日田彦山線。そのうち、添田駅から日田駅までの区間が、日田彦山線BRTとしてバス転換されています。

もともとは日田彦山線の全区間が鉄道で結ばれていました。2017年に発生した大雨災害がきっかけとなり、この区間が日田彦山線BRT「ひこぼしライン」として運行されるようになりました。

鉄道とBRTが分断されたため、運賃制度やきっぷの買い方が独特です。きっぷファンにとっては、とても興味のある内容ではないかと思います。

鉄道とBRTを乗り継ぐ場合、通しの連絡乗車券を買うと大人で100円割引になります。ぜひ活用したいです!

この記事では、日田彦山線BRT「ひこぼしライン」に関する概要に触れた上で、その運賃制度およびきっぷについて徹底的に掘り下げます。そして、日田彦山線(鉄道・BRT)の全区間を完乗した体験をご紹介します。

日田彦山線BRT「ひこぼしライン」とは ~バス転換の経緯~

添田駅

小倉駅(北九州市小倉北区)から田川後藤寺駅(福岡県田川市)および添田駅(福岡県添田町)を経由し、日田駅(大分県日田市)に至る83.3kmの区間が、日田彦山線です。そのうち、小倉駅から添田駅まで45.6kmの区間が、鉄道としての日田彦山線で、JR九州が運営しています。

添田駅から日田駅までの残りの区間37.7kmが、当記事でご紹介する「ひこぼしライン」です(正式名称は「日田彦山線BRT」)。この区間は、JR九州の関連会社、JR九州バスによって運行されています。

日田彦山線位置図

2017年に起きた九州北部豪雨によって、この区間の線路に被害が生じました。そのため、被災した区間は、長い間にわたって運休となりました(代行バスによる運行)。

鉄道による復旧には多くの費用がかかることから、バス転換(BRT化)がJR九州から地元自治体に提案されました。最終的に、BRTの形で復旧することが受け入れられて、ひこぼしラインとしての再出発にこぎつけました。

ひこぼしラインのうち、線路があった区間を専用道路として整備したのが、途中の彦山駅(福岡県添田町)から宝珠山駅(福岡県東峰村)まで14.1kmの区間です。残りの区間については専用道路として復旧されず、一般道を走るようになりました。

専用道路の区間には、延長4379mの釈迦岳トンネルやめがね橋がありますが、元々あった鉄道施設をそのまま流用した形です。

それでは、ひこぼしラインにかかわるきっぷのお話をしていきます!

日田彦山線BRT「ひこぼしライン」の運賃制度・きっぷ

ひこぼしラインの乗車券類と整理券

もともと鉄道路線だった日田彦山線の事業主体は、BRT区間を含めてJR九州(九州旅客鉄道株式会社)です。しかし、BRTの運行そのものは、JR九州の子会社であるJR九州バス株式会社および日田バスに委託されています。

そのため、適用される運送約款や運賃制度が、非常に特異かつ煩雑です。ここでは、運賃制度についてひも解いていきます。

運賃制度・連絡運輸

ひこぼしラインでは独特の連絡運輸のしくみが採用されたため、運賃計算が非常に特殊です。ここでは、その詳細をご説明します。

運行主体と適用約款

日田彦山線の運行は全区間にわたってJR九州によって行われていると思われがちですが、正確ではありません。鉄道区間とBRT区間の運行事業者は、区間別に以下の通りです。

  • 日田彦山線(鉄道区間):JR九州(九州旅客鉄道)
  • 日田彦山線BRT:JR九州バス・日田バス

各区間の運送約款に関しても、鉄道区間についてはJR九州の「旅客営業規則」、BRT区間についてはJR九州バスの「一般乗合旅客自動車運送事業運送約款」が適用されます。

営業キロ(擬制キロ)の設定

鉄道区間とBRT区間は別の路線扱いのため、鉄道とBRTを乗り継ぐ場合もそれぞれの運賃を別々に算出します。

BRTの各停留所には鉄道駅のような営業キロ(擬制キロ)が設定されていて、賃率は鉄道と同水準です。そして、その賃率をもとに、各停留所相互間で運賃が定められています。

賃率が同一のため、鉄道とBRTで運賃計算を通算できると誤解しがちです。しかし、通算するのではなく、鉄道とBRTをそれぞれ別に計算します。

連絡運輸

鉄道区間とBRT区間は運賃制度上別の線区扱いで、鉄道とBRTを乗り継ぐ場合は連絡運輸として取り扱います

JR九州の鉄道線と日田彦山線BRTとの接続駅は以下の通りです。通しの連絡乗車券として発売可能な範囲が、それぞれ設定されています。

  • 添田駅接続
  • 日田駅・光岡駅・夜明駅接続

運賃計算は、次の要領で行います。

[鉄道区間の運賃]+[BRT区間の運賃]ー[乗継割引100円 ※]= 連絡乗車券の運賃

※ 乗継割引の内訳:鉄道区間60円+BRT区間40円

乗継割引の金額が大人で100円と大きいため、鉄道とバスの運賃は別々に支払わず、連絡乗車券として購入するとおトクです(車内で精算する場合「精算証明書」を受け取ります)。

連絡運輸の取り扱いは、JR九州管内に限ります。JR九州以外のJR他社管内では、日田彦山線BRT絡みの連絡乗車券を購入できません。

鉄道区間とBRT区間通算で営業キロが100kmを超える場合、途中駅での途中下車が可能です(福岡近郊区間内で完結する経路を除く)。

障害者割引について

事業主体と運行事業者が別であることがよく現れているのが、障害者手帳所持者に対する運賃の割引です。下記障害者手帳のいずれも割引対象ながら、実務上の取扱方がやや異なります。

● 身体障害者手帳・療育手帳

JR九州の運送約款に基づき、連絡乗車券発売の対象となります。駅できっぷを買ってもよいし、車内で割引運賃を支払ってもよいです。

● 精神障害者保健福祉手帳

BRT区間のみが割引対象となりますが、きっぷの発売は行われません。バス車内で手帳を提示して、現金で運賃を支払います。これは、JR九州バスの路線バスに準じた取り扱いです。

運賃制度をきっぷから探る

ここでは、日田彦山線BRTの区間が含まれた普通乗車券を3枚ご紹介します。これらのきっぷから、いまご説明した運賃制度を垣間見ることができます。

BRT区間単独の普通乗車券

BRT日田駅からBRT光岡駅ゆき普通乗車券

これは、BRT日田駅からBRT光岡駅ゆき普通乗車券です。指定席券売機では購入できず、駅の窓口で購入します。社線単独のマルス券ではなく、九POS券として発券されます。

鉄道区間とBRT区間連絡の普通乗車券

西添田駅からBRT畑川医院前ゆき普通乗車券

まずは、一般的な片道経路をご紹介します。日田彦山線(鉄道線)西添田駅からBRT畑川(医院前)ゆき普通乗車券です。このきっぷを、JR九州管内の指定席券売機にて購入しました。運賃額は、以下の運賃計算にて算出されます。

[鉄道線運賃170円]+[BRT線運賃170円]ー[乗継割引100円]= 240円

BRT夜明駅から夜明駅ゆき普通乗車券

周回経路となる変わり種のきっぷです。BRT夜明駅から日田駅を経由し、久大本線夜明駅ゆきまでの一周経路です(接続駅は日田駅)。同一駅発着となるため指定席券売機では購入できず、駅窓口にて購入しました。運賃額は、以下の運賃計算にて算出されます。

[鉄道線運賃230円]+[BRT線運賃230円]ー[乗継割引100円]= 360円

きっぷの買い方・運賃の払い方

これまでお話しした通り、ひこぼしラインの特殊さから、運賃制度やきっぷが特殊です。ここでは、実際に乗車する時のきっぷの買い方や精算の方法について説明します。

BRT区間のみの利用

BRT区間だけを利用する場合は、バス車内で運賃を現金もしくは交通系ICカードで支払います。乗車時に整理券を取り、降車時に運賃を支払う形です。

日田彦山線および日田彦山線BRTはいずれも交通系ICカードSUGOCAのエリア外ですが、実証実験ベースで交通系ICカードを運賃の支払いに使用できます

JR九州管内の有人駅では、BRT区間完結の普通乗車券(POS券)を購入することも可能です。

鉄道線とまたがる利用

有人駅の窓口もしくは指定席券売機で普通乗車券(マルス券)を購入して乗車するか、車内で運賃を現金で支払います。車内で精算する場合「精算証明書」を利用しましょう。

フリーきっぷの利用

青春18きっぷでも、BRT区間に乗車できます。

また、JR九州管内で有効な各種フリーきっぷでも、BRT区間に乗車できる場合があります。各フリーきっぷによって使用条件が異なるため、当該きっぷのご案内をよく確認してください。

日田彦山線BRT「ひこぼしライン」完乗ガイド・完乗体験

2024年5月下旬の週末に、日田駅から添田駅を経て小倉駅までの全区間を完乗しました。ここでは、ひこぼしラインに加え、日田彦山線の鉄道線の区間を加えた道中をご紹介したいと思います。

完乗のためのプランニング

ひこぼしラインご利用案内

ひこぼしラインを完乗する上で押さえておきたいのが、バスの運行頻度や所要時間などのダイヤです。その情報を踏まえた上で、旅程をプランニングします。

ひこぼしラインのダイヤ

添田駅から日田駅までの全区間を通して走る便は、一日当たり10往復20便が設定されており、1号-20号の便名が付いています(2024年度ダイヤ)。

BRTの始発便が始発駅を出発するのが概ね朝6時で、最終便が始発駅を出発するのが概ね午後8時です。その間、概ね1時間から1時間30分間隔で運行されています。

所要時間は、全区間を通して乗車すると1時間30分から1時間40分程度です。途中の停留所で休憩がないため、そのつもりでいたいです。

旅程のプランニング

筆者は、午前中に半日をかけて、日田駅から小倉駅まで移動しました。日田彦山線全区間の完乗が目的であれば、小倉駅周辺か日田市内に投宿すると余裕ある旅程を立てられます。

ひこぼしラインの区間のみ乗車するのであれば、福岡市をベースにして日帰りで周遊するのも可能です。博多駅から福北ゆたか線(篠栗線・筑豊本線)と後藤寺線を乗り継いで添田駅に入り、ひこぼしラインに乗車します。日田駅到着後、久大本線で博多駅まで戻ります。

旅程にもよりますが、鉄道区間とBRT区間の連絡乗車券を購入すると、ひこぼしラインの運賃制度をよりよく理解できると思います。

それでは、日田彦山線全線を完乗した道中を、写真でご紹介します!

日田彦山線BRT「ひこぼしライン」(日田駅→添田駅)

日田駅駅舎

朝7時30分に、日田駅に到着。駅前の某ホテルに投宿したので、バス停まではすぐそこでした。土曜日だったので学生の姿もなく、駅前はひっそりしていました。

ひこぼし4号:
日田駅 8時15分発 → 添田駅 9時47分着

BRT日田駅

日田駅前にあるひこぼしラインのバス停。イメージカラーと同じ、エメラルドグリーンです。

BRT日田駅

日田駅を発着するBRTの本数が思ったよりも少ないことが、時刻表から読み取れます。

ひこぼしライン中型ディーゼルバス

定刻5分前の8時10分に、BRTが到着。2024年4月に配備されたばかりの中型ディーゼルバスです。ブラウンの車体は、日田彦山線のラインカラーと同じです。

ひこぼしライン整理券

整理券を取ってから乗車。

ひこぼしライン中型ディーゼルバス車内

BRTとはいっても、車両は一般的な路線バスです。車内には新車の匂いがただよっていて、乗車していて快適でした。

ひこぼしライン中型ディーゼルバス車内

各座席には、USB充電ポートが付いていて、長時間の乗車でも安心です。

定刻の8時15分に出発。このバスに乗車していたのは、旅行者は筆者一人だけで、他には地元のユーザーが1組だけでした。途中のバス停から夜明駅前に到着するまでの数分間、筆者一人で貸し切り状態でした。夜明駅で、BRT目当ての旅行者が数人乗車。

ひこぼしライン今山駅

夜明駅前から、今まで走っていた国道386号線から国道211号線に入りました。数分で、今山駅に到着。鉄道時代のプラットホームが残っていました。

ひこぼしライン宝珠山駅駅舎

いつしか福岡県東峰村に入り、すぐに宝珠山駅に到着。駅舎が残っていました。

ひこぼしライン専用道路宝珠山駅にて

宝珠山駅から、専用道路に入ります。もともとあった線路が撤去され、バスが通れるように舗装されています。

ひこぼしライン大行司駅

宝珠山駅の次は、大行司駅。ここにも、列車用のプラットホームが残っていました。

ひこぼしライン専用道路からみた風景

ここから峠越えし、添田町に入ります。この時乗った運転士さんが専用道路について案内してくれて、めがね橋とトンネルについて学べました。釈迦岳トンネルの延長が4379mで、道路に埋め込まれている反射材の色がトンネルの中心で変わるということでした。トンネル途中でアップダウンがない直線道路を進む様子を眺めたのは、貴重な体験です。

彦山駅で専用道路が終わり、一般道へ。終点の添田駅まで、福岡県道52号線を進みました。徐々に、地元のユーザーが乗車。途中で道の駅「歓遊舎ひこさん」を通り、添田町の中心部へ。終点ひとつ前の停留所「畑川(医院前)」には本当に内科クリニックがあり、地元の人が降りていきました。

定刻の9時47分に、添田駅に到着。

日田彦山線鉄道区間(添田駅→小倉駅)

添田駅

添田駅にはプラットホームがあるだけで、待合室や駅舎は残っていませんでした。ホーム上でBRTと列車が乗り換えられる構造です。

添田駅

ホームには券売機が設置されていますが、鉄道用です。BRT区間のきっぷは購入できません。

添田駅駅名標

添田駅の駅名標。BRT区間には駅名標が設置されていなかったため、久しぶりに見る駅名標でした。列車とBRTが一体になったものです。

添田駅

写真の左側がBRT用の専用道路で、右側が列車用の線路です。添田駅で線路が行き止まりになっています。

普通944D:
添田駅 10時02分 → 田川後藤寺駅 10時16分

日田彦山線普通列車添田駅にて

添田駅から乗車したのは小倉駅ゆきの直通列車ではなく、田川後藤寺駅ゆきでした。

日田彦山線キハ40車内

日田彦山線には、いまだにキハ40が走っています。国鉄時代を思い出すような懐かしい車内です。

田川後藤寺駅駅名標

田川後藤寺駅に到着し、小倉駅ゆきに乗り換え。後藤寺線に乗り換えると、新飯塚駅を経て博多駅方面に向かうことが可能です。

普通946D:
田川後藤寺駅 10時23分 → 小倉駅 11時15分

日田彦山線普通列車田川後藤寺駅にて

田川後藤寺駅の構内には古き良き風情が残っています。余韻に浸ってる間もなく、列車は発車。

土曜日の午前中ということもあって、小倉に出かける大勢の地元のユーザーで車内が混雑しました。

小倉駅駅名標

いつの間にか北九州市内に入り、ほどなく小倉駅に到着。

まとめ

添田駅

福岡県北九州市と大分県日田市を結ぶ、JR九州日田彦山線。そのうち、途中の添田駅から日田駅までの区間が「ひこぼしライン」としてBRTが走っています。

BRT区間の大半は一般道ですが、峠越えの区間に専用道路が整備されています。専用道路によって険しい峠越えを避けることができており、単にバス転換するのとは違うBRTならではのメリットが感じられます。

以前は鉄道だったBRT区間に乗車する際の運賃制度が、特殊です。鉄道とBRTでは運賃水準(賃率)が同じにもかかわらず、別々の路線扱いです。鉄道とBRTを乗り継ぐ場合は、連絡運輸に基づく連絡乗車券を購入することになります。

日田駅から添田駅までの全区間の所要時間は、約1時間30分です。路線バスの座席に座る時間が長いため、一気に乗るとどうしても疲れます。区間の途中には道の駅「歓遊舎ひこさん」があるので、休憩しながらの道中を楽しんではいかがでしょうか。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料

● 日田彦山線 BRTひこぼしライン 公式ウェブサイト(JR九州) 2024.7閲覧

● 「JR日田彦山線、一部BRTに転換して28日スタート 災害乗り越え」(朝日新聞デジタル)2023.8.25付

● 九州旅客鉄道株式会社 バス高速輸送システム旅客連絡運輸規則 2023.8現行

当記事の改訂履歴

2024年7月15日:初稿 修正

2024年7月13日:当サイト初稿

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