小駅を訪問し、鉄道の手売りきっぷを収集する「きっぷ鉄」には、根強い人気があります。JR各社のきっぷ収集に関しても、その例外ではありません。
本州各社の駅では、常備券や補充券といった手売りきっぷはほとんど見られなくなりました。一方、JR九州管内の小駅ではそれらのきっぷがまだまだ健在で、きっぷ鉄ファンの活動領域が残されています。
JR九州管内では、出札窓口の営業を地元の自治体が受託し、簡易委託駅として手売りきっぷを発売する形態が主流です。金額式補充券といった、他の会社では見られないような珍しい様式が存在し、興味をそそられます。
JR九州ウェブサイトに掲載されている駅情報から、どの駅が簡易委託駅かを推測できます。あらかじめ営業時間や休業日を把握できるため、比較的容易にきっぷ鉄が可能です。
この記事では、JR九州管内における手売りきっぷの収集事情や駅めぐりについて説明した上で、筆者が簡易委託駅で実際に購入した手売りきっぷをご紹介します。この記事でご紹介する情報が、簡易委託駅を攻略するためのよいヒントになれば幸いです。
JR九州管内の手売りきっぷ収集(きっぷ鉄)事情
JR九州管内の小駅においては、行政サービスの一環として地元の自治体が駅の出札業務や改札業務を受託するケースがあります。そのような駅を「簡易委託駅」と呼びますが、多くの駅では発券端末が導入されていないため、手売りきっぷの購入が可能です。
JR線のきっぷ発券はほとんど端末化されているため、手売りきっぷは希少な存在です。その希少さから、きっぷ鉄ファンから一定の人気があります。
冒頭で触れた通り、自治体が受託している簡易委託駅が、九州各地に散らばっています。簡易委託駅が思ったよりも残っており、手売りきっぷの購入は意外に容易です。
きっぷ鉄ファンに良く知られた簡易委託駅の代表格は、指宿枕崎線の西頴娃(にしえい)駅(鹿児島県南九州市)です。この駅は地理的に隔絶されており、かつ営業日や営業時間が非常に限られています。そのために西頴娃駅の訪問は困難ですが、それでも一定の人気があるようです。簡易委託駅における出札業務について、X(Twitter)などの媒体にて駅のスタッフが自ら情報を発信しています。
簡易委託駅以外であっても、限定的に手売りきっぷが発売されることがあります。実際に、豊肥本線宮地駅(熊本県阿蘇市)では、期間限定で補充券が発売された実績があります。発売区間や枚数などには制約があるものの、非常に貴重な存在です。
このような取り組みがあることから、JR九州は他のJR会社と異なり、手売りきっぷの収集に比較的寛容と言えるのではないでしょうか。
手売りきっぷ収集のための情報収集
簡易委託駅を訪問する上でハードルになるのが、情報が少ないことです。しかし、効率的に訪問できるためには、事前の情報収集が欠かせません。
簡易委託駅の営業時間・休業日の調べ方
手売りきっぷを購入できる簡易委託駅の訪問に際しては、営業時間および休業日を事前に把握するのが鍵です。しかし、これが実に難しいのです。
幸いなことに、JR九州に関しては信頼できる情報があり、訪問の助けになります。
どの駅が簡易委託であるかは、JR九州ウェブサイトの駅情報に記載されている営業時間および休業日から推測が可能です。また、POS端末設置駅であるか否か(常備券や補充券の設備の有無)も推測できます。営業時間が変則的な場合、簡易委託駅ではないかと推定できるわけです。
どの駅が簡易委託駅であるかについては、当記事末尾のAppendixに筆者が把握できた限りでまとめました。
公式情報の他、実際に現地を訪問したユーザーが投稿したSNS上の情報も、是非参考にしたいです。
駅めぐりに使用するきっぷの検討
手売りきっぷを発売するような小駅には特急列車が停車することは少ないため、普通列車で訪問することが多くなります。したがって、普通列車に乗車できるフリーきっぷを探したいところです。
残念なことながら、JR九州が発売するフリーきっぷは大変少なく、JR九州の駅めぐりに適したきっぷはなかなかありません。
春季・夏季・冬季の設定期間中であれば、全国のJR線普通列車に乗り放題の「青春18きっぷ」を利用するのがベストです。ただし、その期間中は駅への訪問者が多くなると予想できます。
青春18きっぷ以外で、通年使用できるきっぷがあれば望ましいのですが、JR九州が株主向けに配布している株主優待券が有用です(金券ショップやネットオークション等で入手可能)。株主優待券は1日間有効で、JR九州全線に乗車できます。駅めぐりにはもってこいのきっぷです。
お待たせしました。それでは、きっぷを実際に見ていきましょう!
収集可能な手売りきっぷの種類
JR九州管内の簡易委託駅で収集できるきっぷには、POSと呼ばれる端末から発行されるPOS券や、あらかじめ印刷された常備券・補充券があります。多くの方にとっては、後者に興味があるのではないでしょうか。
なお、多くの鉄道会社で見られるような硬券入場券は、JR九州管内では発売されていません。
POS券【直営駅・簡易委託駅】
JR九州の直営駅の他、自治体委託の簡易委託駅にもPOS端末が設置されています。POS券の様式は、直営駅、簡易委託駅を問わず同一です。
写真を見ると分かるように、発行箇所には「□九」の記号および「POS」という表記が見られます。
簡易委託駅における手売りきっぷから少しだけ脱線しますが、JR九州の直営みどりの窓口に設置されている端末は、マルスモードとPOSモードの切り替えが可能です。指定券はホストに接続して発券する一方、普通乗車券などはホスト接続なしにPOSモードで発券します。
豊肥本線肥後大津駅で購入した入場券。写真の上がPOS券、下がマルス券です。
常備券・補充券
きっぷ収集の対象としては、こちらが主流ではないかと思います。券種別にご紹介していきましょう。
JR九州で発売されている手売りきっぷで特徴的なのが、赤色地紋の金額式補充券です。短冊状になった券片を一枚づつ切り離して発売します。このきっぷを発売する際にはチケッターで必ず押印し、日付が刻印される形です。
JR各社共通の様式である補充片道乗車券(補片)については、JR九州でも終息傾向です。すでに発売を終えた駅が多く、あっても在庫限りの駅が多いと認識しています。JR九州では、発駅補充式の記補片が多く見られます。写真のように、以前は発行箇所常備式の券が流通していましたが、現在は発行箇所補充式の券が主流です。
いくつかの駅には、補充往復乗車券(補往)も残っています。補片と同様、発行箇所常備式と発行箇所補充式の様式が見られます。
比較的よくみられるのが、補往と類似した常備式往復乗車券です。地方都市の周辺部の駅から中心駅まで往復するための乗車券として発売されており、比較的売れるようです。
現在は、金額券がない区間に対して片道乗車券を発売する際の様式として、出札補充券(出補)に集約される傾向です。
発駅から100km以内の近距離きっぷ(乗車券・定期券)のみ発売する駅が多いのですが、一部の駅では特急券の発売も行われています。そのために料金専用補充券(料補)を取り扱う駅もありますが、JR九州管内では少数派と言えるでしょう。
JR九州管内各簡易委託駅の手売りきっぷ
筆者が駅をめぐり、購入できた手売りきっぷを、駅別にご紹介します。JR九州管内の簡易委託駅のうち、一部の駅であることにご留意ください。
鹿児島本線大野下駅(熊本県玉名市)
玉名市が出札業務を受託しており、日中営業しています(日曜日および年末年始は休業)。発売するきっぷの券種は、片道100km以内の近距離きっぷ(乗車券・定期券)のみです。
待合室にはJR九州が設置した券売機がありますが、窓口で手売りきっぷを購入できます。
金額式補充券の他、補充片道乗車券と補充往復乗車券が設備されています。
鹿児島本線木葉駅(熊本県玉東町)
玉東町が出札業務を受託しています。自駅発の乗車券に加え、自由席特急券も発売しています(他駅発可能)。筆者が訪問した時には補充片道乗車券の設備はなく、代わりに出札補充券が設備されていました。
JR九州によって券売機も設置されていますが、窓口できっぷの購入が可能です。
この駅には補充片道乗車券が設備されていない代わり、出札補充券が設備されています。自由席特急券を発売するための料補もあります。
日南線南郷駅(宮崎県日南市)
プロ野球キャンプ地の最寄り駅です。観光特急「海幸山幸」号の発着駅でもあり、立ち寄る機会が多いでしょう。地元の観光協会が、出札業務を受託しています。
筆者が訪問した時は、金額式乗車券の他、自由席特急券の取り扱いがありました。
鹿児島本線長洲駅(熊本県長洲町)
長洲町が受託していて、シルバー人材センターから派遣された方が駅務を担当しています。例によってこの駅にも券売機が設置されていますが、その管理も受託の範囲ということです。
補充片道乗車券および補充往復乗車券が設備されていますが、JR九州の全体の潮流から考えると、いずれも終息傾向にあるような気がします。
久大本線田主丸駅(福岡県久留米市)
久留米市の観光協会が、出札業務および改札業務を受託しています。簡易委託駅にしては珍しく、POS端末が設置されています。補充片道乗車券の在庫がなくなり、手売りきっぷの発売は現在ありません。
在庫がなくなる寸前で購入できた補充片道乗車券、ならびにPOS券(入場券と乗車券)です。
鹿児島本線湯之元駅(鹿児島県日置市)
日置市(旧東市来町)が、出札業務を受託しています。自駅発の近距離きっぷのみが発売対象です。
補充片道乗車券の在庫は終了しており、片道乗車券を発行するのに出札補充券が使用されています。金額式補充券および補充往復乗車券の他、鹿児島中央駅ゆきの常備式往復乗車券が設備されています。
鹿児島本線東市来駅(鹿児島県日置市)
湯之元駅と同じく、日置市が出札業務を受託しています。ここでも、自駅発の短距離きっぷのみが発売されています。
補充片道乗車券および補充往復乗車券の在庫はなくなっており、金額式補充券と出札補充券にも設備されています。湯之元駅と同様、鹿児島中央駅ゆきの常備式往復乗車券が設備されています。
肥薩線粟野駅(鹿児島県湧水町)
地元の湧水町観光協会が受託しており、日中時間帯に営業しています。
短距離きっぷといった制限は特になく、JR九州管内に収まる範囲の乗車券類の購入が可能です。特急券については、指定券の取次はなく、自由席特急券のみの取り扱いです。
金額式補充券と出札補充券、料金専用補充券の他、鹿児島中央駅(や他の駅)ゆきの常備式往復乗車券が設備されています。
謝辞
JR九州管内のきっぷ鉄、実際に簡易委託駅をめぐった際には多くの受託者さんに優しく対応していただきました。ここに感謝申し上げたいと思います。
あくまでも住民向けのサービスであることを理解した上で、節度ある収集を心がけたいです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Appendix:JR九州管内の簡易委託駅一覧
JR九州ウェブサイトなどの資料から、筆者が簡易委託駅の一覧表を作成しました。線区名・駅名および所在地をまとめてあります。POS駅かどうかも区別できるようにしました。
参考資料
● JR九州ウェブサイト 駅情報一覧 2024.11閲覧
当記事の改訂履歴
2024年11月08日:当サイト初稿
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