九州の福岡県内に路線網を展開する西日本鉄道(西鉄)では、障害者手帳所持者に対する運賃の割引が実施されています。障害種別によらず、距離制限なしに割引を受けられるのが、西鉄の特長です。
西鉄における交通系ICカードは「nimoca(ニモカ)」ですが、手帳を所持していれば障害者用カードを利用できます。あらかじめ障害者用カードを購入しておけば、西鉄に加えてnimocaエリアのほぼすべての交通事業者で運賃が自動で割引され、スムーズです。
障害者手帳を所持する筆者も、九州を訪れる際にこのカードを利用しています。手帳を都度提示することなく割引後の運賃が自動的に引き落とされるので、とても便利です。
nimoca障害者用カードは、全国相互利用の交通系ICカードとして利用できない点に留意したいです。また、毎年誕生日の前に有効期限の更新が必要なので、忘れずに手続きを済ませましょう。
この記事では、西日本鉄道の他、nimocaエリアに含まれる九州地区の交通事業者で割引が適用される「nimoca」障害者用カードについて、購入方法や使用方法を一通りご説明します。また、西日本鉄道線における障害者割引でのきっぷの購入方法も、あわせてご説明します。
nimoca障害者用カードに関する情報が大変少ないため、当記事の情報が読者さまのお役に立てれば幸いです。
交通系ICカード「nimoca」と「nimocaエリア」について
障害者割引のお話に入る前に、nimocaに関する基本を押さえたいと思います。
nimocaとnimocaエリア
全国相互利用の交通系ICカードの中でも、西日本鉄道が展開しているのが「nimoca」です。西日本鉄道に限らず、全国相互利用の交通系ICカード利用エリアでnimocaを利用できます(障害者用カードを除く)。
他の交通系ICカードにないnimocaの特長は、「nimocaエリア」の存在です。九州内の多くの交通事業者(鉄道・バス)がnimocaに参画しており、中核となる西鉄とともにnimocaエリアを構成しています。
nimocaエリアに所在する中小規模の交通事業者は、交通系ICカードのシステムを自社で構築する必要がありません。このことは、交通機関を利用するユーザーおよび交通事業者の両者にとってのメリットと言えるでしょう。
nimocaで利用できる交通機関のエリアの範囲は、以下のようなイメージです。
[西日本鉄道 < nimocaエリア < 全国相互利用の交通系ICカード利用エリア]
「nimoca」障害者用カード
nimocaの特長の一つが、障害者用カードが設定されていることです。本来は、乗車するたびに障害者手帳を駅員や運転士に提示する必要がありますが、このカードによってその手間が省けます。そのため、障害を持つ当事者にとって、よりスムーズに社会生活を送れることにつながります。
しかし、交通系ICカードに障害者用の設定が存在すること自体、あまり知られていません。nimocaも同様で、障害者用カードに関する情報がとても少ないのです。
カード発行者の株式会社ニモカ(西日本鉄道の完全子会社)からの情報発信が乏しいこともあり、nimoca非公式ガイドとしての当記事を執筆することにしました。当記事が、当事者のお役に立てれば幸いです。
西日本鉄道における障害者割引制度の経緯
精神障害者保健福祉手帳を所持するユーザーに対する運賃の割引制度が立ち遅れている中での先進事例が、西日本鉄道です。
身体障害者手帳および療育手帳の所持者に対しては従来から交通運賃の割引が実施されていました。精神障害者保健福祉手帳所持者に対して割引制度が広く及ぶようになったのは、最近になってからのことです。
精神障害者保健福祉手帳を提示した場合に、西日本鉄道の全線および西鉄バスの路線バスが割引対象になることが、2017年になって同社から告知されました。大手鉄道会社における初の適用事例であり、先進的な取り組みであったと言えます。
その後、精神障害者保健福祉手帳所持ユーザーに対する割引対象が拡大され、2024年10月以降西鉄バスが運行する長距離高速バスにも広がりました。
障害者が介護者なしで単独旅行する場合、割引に条件がある鉄道会社が大半です。そのような中、西鉄においては距離制限なしに全区間で割引が適用されます。通院などの日常生活で鉄道を利用する際の経済的負担が減ったことは、ありがたいことと思っています。
nimoca障害者用カードの割引対象事業者
nimoca障害者用カードに関しては、西日本鉄道線だけでなく、nimocaエリア内にある多くの鉄道・バス会社で有効です。
従来は鉄道と路線バスが障害者割引の対象でしたが、nimocaに関してはエリア内の空港連絡バスや県間の高速バス(西鉄バス運行便)であっても割引が適用されます。
北海道函館市内を走る函館市営の路面電車や函館バスに関しては、残念なことに精神障害者が割引対象外になっています。今後の適用拡大が望まれます。
福岡市を訪れる他、九州内の他の都市に直接入る場合であっても、nimoca障害者用カードを利用して運賃の割引を受けられることが、大きなメリットです。
これは、筆者がnimoca障害者用カードで乗車した際の履歴です。西鉄線の他、熊本市電、宮崎交通、長崎県営バス、長崎電気軌道、西肥バスにも乗車しましたが、手帳を提示することなく割引運賃が自動適用されたことが分かります。
当記事執筆時点の主な割引対象事業者は、鹿児島県以外の九州各県および山口県にまたがっています。
- 西日本鉄道
- 筑豊電気鉄道
- 西鉄バス
- JR九州バス(路線バス)
- 北九州市営バス
- 佐賀市営バス
- 長崎電気軌道
- 松浦鉄道
- 長崎県営バス
- 西肥バス
- 大分交通
- 日田バス
- 熊本市交通局
- 宮崎交通
- サンデン交通
- 函館市企業局交通部(身体・知的のみ)
お待たせしました!それでは、nimoca障害者用カードの買い方と使い方の説明に入ります!
nimoca障害者用カードの新規購入方法
nimocaの場合、障害者用カードを新規に購入できる箇所が限られるために、ハードルの高さを感じるかもしれません。
西鉄線の場合、大きな駅にあるサービスセンターか定期券売り場で新規購入が可能です。西日本鉄道以外の交通事業者の場合、主要な営業所やバスセンターなどで手続きします。
障害者手帳を提示し、申込書に記入した上で購入しますが、障害種別や手帳の発行自治体による区別や限定はありません(函館市企業局交通部を除く)。障害等級によって、介護者の要否などの必要条件が異なるため、詳しくは発行箇所で確認しましょう。手帳さえあれば誰でも利用可能なことが、当事者にとってありがたい点です。
新規購入できる箇所については、最新のウェブ版リーフレットを参照するようにしたいです。
新規購入に必要な最低金額は、2,000円です。そのうちデポジットとして500円が引かれるため、実際に使用できるチャージ残高(「ストアードフェア」といいます)は1,500円です。
購入したnimoca障害者用カードは記名式で、表面には氏名および性別、障害者用であることを示す[障]が表示されています。
nimoca障害者用カードの使い方・利用期限の更新
nimoca障害者用カードについては自動で割引が適用されるように設定されており、このカードを自動改札機や運賃箱にかざすだけで割引運賃が引き落とされます。この際、障害者手帳を提示する必要はありませんが、忘れずに携帯したいです。
nimoca障害者用カードが使えるのは、西鉄線の駅を含むnimocaエリアにある交通機関に限ります。エリア外の交通機関では、たとえチャージ残高があっても利用できません(例えば、JR九州の鉄道線や福岡市地下鉄など)。
福岡市地下鉄を利用する場合、交通系ICカード「はやかけん」の障害者用カードを別に所持します。「nimoca」と「はやかけん」の共通利用ができないことを、覚えておきたいです。
nimoca障害者用カードには利用期限が設定されていて、定期的に利用期限の更新が必要です。更新が必要な時期は、以下のようになります。
- 新規購入直後の更新:購入から2回目の誕生日
- それ以降の更新:直近の更新から1年後の誕生日
原則として、誕生日の3か月前から更新できます。精神障害者保健福祉手帳の場合、手帳の有効期限を超えることはできません。
更新手続きについては、西鉄線内であれば上述した箇所以外でも可能です。筆者は、西鉄駅の有人改札にて更新を済ませました。
nimocaを利用するではなく、西鉄線の普通乗車券(紙のきっぷ)を障害者割引で購入する場合の手順を説明します!
西日本鉄道の障害者割引(普通乗車券)
nimocaエリア内の交通機関を多く利用しない場合、普通乗車券(紙のきっぷ)を購入して障害者割引を受けることも可能です。
割引の対象者
障害者用カードと同様、普通乗車券に関しても障害種別や手帳の発行地による区別はありません。割引対象者については、障害等級により、以下の通りとなります。
● 第一種:身体1‐3級・療育A/精神1級
障害者本人および介護者1名
● 第二種:身体・療育(上記以外)/精神2・3級
障害者本人のみ
対象区間・設備
西日本鉄道全線全区間が、割引対象になります。西日本鉄道には接続する他社線がないため、連絡乗車券(連絡運輸)については考慮不要です。
割引率
普通運賃に関しては、50%割引となります(障害等級による区別なし)。定期運賃については、障害等級が第一種および小児の第二種に限り、本人と介護者の分を購入できます(50%割引)。
西日本鉄道における割引乗車券の買い方
障害者手帳を持参し、提示できるようにします。駅では、自動券売機を利用します。
券売機の左方にある[わりびき]ボタンを押します。駅員を呼び出しするモードに入るので、駅員が出てきた時に障害者手帳を提示し、確認してもらいます。
すると、割引運賃での金額ボタンを押せるようになります。目的地までの金額ボタンを押し、お金を入れてきっぷを購入します。
紙のきっぷの券面には「割」と表示されています。小児用のきっぷとは表示が異なり、代用できません。
西日本鉄道における情報開示はオープンではない
西日本鉄道においては、普通乗車券の他、nimocaを含む全国相互利用の交通系ICカード、クレカのタッチ決済で自動改札を通れます。
このように利用手段は多様ですが、障害者割引に関しては不案内なのが現状です。筆者も懸命に情報を検索するものの、満足する結果が得られませんでした。また、西鉄の案内所で受けた説明も十分なものではありませんでした。
そのようなこともあり、クレカのタッチ決済に関しては必要な情報が不足しているため、当記事での説明を割愛いたしました。
西日本鉄道には、障害者用カードの情報を含む運賃の障害者割引に関する情報開示をオープンに行うように求めたいです。
まとめ
福岡県内を走る西日本鉄道および九州内のnimocaエリアにおいては、nimoca障害者用カード(交通系ICカード)によって運賃の障害者割引が受けられます。
身体障害者手帳、療育手帳所持者に加え、2017年4月より精神障害者保健福祉手帳所持者も障害者割引の対象に加わりました。精神障害者に対する運賃の割引に関しては、西鉄が先進事例です。
障害者用カードを新規購入するには、西日本鉄道のサービスセンター・定期券売り場もしくはnimoca参画事業者の営業所等で障害者手帳を提示して手続きします。最低金額は2,000円です(内デポジット500円)。
自動改札機や運賃箱にこのカードをかざすと、手帳を提示することなく割引運賃が自動的に引き落とされます(手帳を忘れずに携帯)。定期的に、カードの利用期限の更新手続きが必要です。一部の事業者を除き、誕生日前の3か月前から手続きが可能です。
障害者用カードを、nimocaエリア外で使用することはできません。たとえカードに残高が残っていても、自動改札を通れない点に留意しましょう。例えば、福岡市地下鉄に乗車する場合には、別の交通系ICカード「はやかけん」の障害者用カードを準備します。
当記事が、障害者用カードの非公式ガイドとしての役割を果たせれば幸いです。この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● nimocaご利用ガイド(株.ニモカ) 2024.4
● 西日本鉄道プレスリリース「精神障がい者割引の導入について」2017.2.24付
● 西日本鉄道プレスリリース「精神障がい者割引適用路線の拡大について」2024.7.31付
当記事の改訂履歴
2024年12月03日:当サイト初稿(リニューアル)
2020年6月28日:前サイト初稿
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